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【12話】疫病に侵された村


 それから数日後。

 リーシャはバスティン王国の南方、疫病が蔓延している小さな村――ラントルを訪れた。

 

 隣にはフェイムスがいる。

 リーシャを一人で行かせることはできない、と同行してくれた。


 ラントルの空気はずっしりと重たく、息苦しさを感じる。

 これも疫病のせいなのだろうか。


「これは国王様。よく来て下さいましたな」


 やって来たのは、杖をついた初老の男性。


「私はバド。ラントルの村長をしているものですじゃ」


 二人に頭を下げてきたバドに、リーシャも頭を下げる。


「初めまして。治癒術師のリーシャと申します」

「緑ポーションの精製は、すべて彼女が行っている」

「あなた様があのポーションを……!」


 バドは拝むような瞳でリーシャを見た。


「緑色のポーションのおかげで多くの患者が救われました! ありがとうございます!」


 地面とくっつきそうなくらいに頭を下げてきたバドに、「頭を上げてください」とリーシャは優しい声色で返した。

 

(私のポーションは役に立っているようね。良かったわ)


 生の声を聞けたことで、バスティン王国に貢献しているという実感をようやく得られたような気がする。

 達成感に、胸がじんと熱くなった。

 

「そういえば、フェイムス様とリーシャ様はどのようなご用件でここへ?」

「それはだな――いや、俺よりもリーシャから話した方がいいだろう」


 フェイムスからバトンを受けて、リーシャは頷いた。


「私が来たのは、疫病の原因を突き止めるためです」

「なんと……! そのようなことが可能だとは!」

 

 バドは愕然。

 大きく目を見開いた。

 

「して、その方法とは!」

「まずは疫病の原因である、『(けが)れ』の位置を探ります」

「……穢れ? リーシャ様。申し訳ないが、それはいったいなんのことですじゃ?」

「人々を苦しめる悪いものを私は、穢れ、と呼んでいます。多くの人々を苦しめている疫病の原因ともなれば、かなり強い穢れを放っているはず。まずはその位置を特定します」

 

 瞳を瞑ったリーシャは胸の前で両手を組み合わせ、祈るような体勢を取った。

 リーシャの体が淡い金色の光に包まれる。

 

 リーシャは、穢れを感知する力を持っている。

 これは普通の人間にはもちろん、聖女にだってできない。神子であるリーシャだけが持つ、特別な力だ。

 

 フェイムスとバドは言葉を発しない。

 なんとも神々しい光景に、ただただ見入っていた。


「分かりました!」


 リーシャの瞳がカッと開く。

 

 ここより少し離れた場所から、強い穢れを感じる。

 恐らくそこが、疫病の原因となっている場所だ。

 

 リーシャを先頭にして、一行はそこへ向かって歩き始めた。


 

 その道中。

 

(寂しい雰囲気だわね)

 

 閑散としている周囲の景色に、リーシャはそんなことを思った。

 

 店はどこもかしこも閉店中で、やっているところは見られない。

 人通りはまったくなく、誰も外に出ていなかった。

 

「寂しいところでしょう?」

「……えっと」

「ですが、疫病が流行る前はこうではありませんでした。小さいながらも、活気に溢れた村だったのです。」


 どう答えたものかと戸惑っていたリーシャに、バドは寂しそうに漏した。

 

「しかし今はこのありさま。疫病を恐れ、みんな家に閉じこもってしまっている。……リーシャ様。私は生まれてからずっと、この村で生きてきました。またあの頃のラントルに戻ることはできるのでしょうか?」

「大丈夫です。疫病さえなくなれば、きっと以前の村に戻りますから」

「ありがとう。あなたのような素晴らしいお方にそう言ってもらえると、勇気が出ます」


 微笑むバドに、リーシャもまた微笑みを返した。

 

 そうして、ちょうど話がひと段落したこのタイミングで、リーシャはスッと片腕を上げた。


「着きました。ここです!」


 そこは巨大な枯れ井戸の前だった。

 井戸に近づいて中を覗いてみれば、かなり底は深かった。

 

「強い穢れは、この井戸の奥底から発生しています!」

 

 井戸の奥底から立ち昇った穢れが、風に乗って村中に広がっている。

 神子以外には見ることのできないその光景が、リーシャにはハッキリと見えていた。

 

 間違いない。

 疫病の原因はこの奥底にある。

 

「村長。この下には何がある?」

「はて……ここは長いこと誰にも使われていない枯れ井戸ですからの――あ!」


 何かを思い出したようにバドが声を上げた。

 

「疫病が流行る少し前にこんな噂を聞きました。よそ者の酔っ払い数名がこの井戸に落ちて死んだ、と」

「原因はそれです! 死体から立ち昇った瘴気が外に出てしまい、風に乗って村中に拡散。疫病が発生してしまったのです」

「まさかそんなことが原因だったとは……」


 啞然としているバドの隣で、フェイムスが腕を組んだ。


「なるほど……。では穢れをはらうには、井戸の底にある死体を取り除けばいいのだな?」

「いえ、その必要はありません。穢れは私が祓います。今、ここで」

 

 フェイムスの、どうやって、という声より先に。

 リーシャは先ほどと同じく祈りの体勢を取った。

 

 リーシャの体を包む淡い金色の光と同じ光が、井戸の底から真上に向かって噴き上がっていく。


 これは、浄化、と呼ばれる穢れを祓う行為。

 神子であるリーシャは穢れを感じ取るだけでなく、こうして消し去ることもできるのだ。

 

「全部消えたわね」

 

 奥から噴き上がっていた強烈な穢れが、綺麗さっぱり消えた。

 浄化完了だ。

 

「穢れを完全に取り除きました。これでもう、新たな疫病の被害者が生まれることはないでしょう」

「おお! これで……これでやっと村が元通りになる……!」


 バドの瞳から涙がこぼれていく。

 

「ありがとうございます! あなたは女神様じゃ!!」

 

 バドは何度も、何度も頭を下げてきた。

 リーシャが、頭を上げてください、と言っても決してやめようとはしなかった。

 

 

 そしてフェイムスはというと、

 

「なんという力だ……」

 

 人間の域をはるかに超えた奇跡とも呼べる行為を起こしたリーシャへ、驚愕の視線を向けていた。

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