【10話】リーシャの正体※フィムス視点
リーシャが部屋から出ていったあと。
フェイムスは横に座っているリューンに顔を向けた。
「……リーシャのことをどう思う?」
「真面目で一生懸命な子だと思う。それと、とってもかわいい!」
「いや、俺はそういうことを言っているんじゃなくてだな……」
「冗談だよ。……分かってるさ。お前はこう言いたいんだろ? リーシャちゃんは治癒術師の域を超えている、って」
「その通りだ」
緑色のポーションを作るには規格外の魔力がいる――緑ポーションを調べた治癒術師はそう言っていた。
リーシャは平凡な治癒術師を自称しているが、フェイムスにはそうは思えなかった。ただの治癒術師がそれほどの魔力を使えるのは、どう考えてもおかしい。
それに先ほどのノルマの話も気になる。
一般の治癒術師が一日に作れる回復薬の量は、百個ほどとされている。
どんなに優れた治癒術師でも、せいぜい二百個が限界だろう。
しかしリーシャは、一日で千個作れる、とそう言った。
ありえない。そんな治癒術師など聞いたことがない。域を完全に超えている。
「リーシャはたぶん、隠し事をしている」
恐らくリーシャの正体は治癒術師ではない。
もっと強い力を持つ、特別な何かだ。
「どうする? 問いただして無理矢理に吐かせるか?」
「…………いや、それはしたくない。彼女のことだ。きっとそれだけの理由があるのだろう」
リーシャが人を傷つけるような人間だとは思えない。
まだ数度しか話をしていないが、人を見る目に自信があるフェイムスにはそれが分かっていた。
リーシャの嘘は人を騙すためについているものではない。
彼女なりの、もっと別の理由があるはずだ。
「自分から話してくれるその日まで、待ちたいと思っている」
「隠し事をしている人間を王宮に住まわせる……か」
「甘い、だろうか?」
自信はあるが結局のところ、フェイムスの考えは予想にすぎない。
外れていた場合を考えるならば、無理矢理にでも問いただすのが正解なのだろう。
フェイムスはバスティン王国の国王だ。
リスクの高い軽率な行動は控えるべきなのかもしれない――そんな思いをリューンへとぶつける。
幼なじみであるリューンはいつも、忖度のない率直な意見を言ってくれる。
これが国王として間違った判断ならば、そう言ってくれるはずだ。
「いや、いいんじゃないか。俺もフェイと同意見だ」
リューンが微笑む。
その言葉を聞けて、フェイムスは安堵した。
「リーシャちゃんは良い子だ。人を傷つけるようなことをして、平気でいられるような子じゃないと思う」
「あぁ。その通りだ」
「無理矢理に聞いて傷つけたくないしな。それが原因で仕事を辞められたら最悪だ」
「彼女はこの国の希望だ。それは困る」
「あとはそうだな……あんな子がお前の嫁さんになってくれたら、近衛騎士である俺も安心できるのにな」
「……変なことを言うな」
からかわれてしまったフェイムスは真っ赤になった顔を、プイっと背ける。
リーシャが妻になる――そんなことを一瞬だけ考えてしまって、赤くなってしまった。
そんな今の自分をリューンには見せたくなかった。
(絶対バカにしてくるだろうからな!)
「これは本当に惚れているパターンだな……」
小さく呟くリューンのその声は確信めいている。
しかしそれは、表情を見せまいと必死になっているフェイムスには届いていなかった。




