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短編集

〇日後にエタらせる読者

作者: Mel

◯日後にエタる作者

と対になっておりますが、どちらから読んでも大丈夫ですし、読まなくても大丈夫です。

 通勤電車に揺られる時間と、お風呂から上がって寝るまでの自由時間。

 そのひとときを使って、某小説投稿サイトにアップされた作品を読むのが、私の趣味の一つだ。


「うそぉ、作者さんがいなくなってる……!」


 まただ。

 また私のお気に入りユーザーが一人、ひっそりと退会してしまった。

 ブックマークしていた長編作品を、未完のままにして。


「あんなに応援コメントしても、ダメだったかぁ……」


 やっぱり、あの設定が受けなかったのかな? もうちょっと流行りに寄せたほうがよかったんじゃないかなぁ……。

 あれこれと分析してみるけれど、その真相は分からない。


 ただ分かることは、私は人と感性が少しズレているらしい、ということだ。

 私が「面白い! これは書籍化間違いなし!」と思った作品は、どれもこれも浮上することなく、気づけばエタってしまうことが多かった。


 最初はたまたまだと思っていた。

 けれど、ことごとくそうなると、さすがに疑いたくもなる。


 私……逆スコッパーなんじゃない? って。



 スコッパーとは、埋もれた良作を掘り起こして、世に広める人たちのことを指す。

 今やアニメ化して大人気となったあの小説も、かつてはブクマ一桁で燻っていた。

 それを掘り起こしたのも有名なスコッパーらしい。


 そんなスコッパーに憧れて、私も暇な時間に色々と掘り出してみるのだけれど――。

 なにせ個人ブログをやっているわけでもないし、ラノベを読む友人もいない。

 SNSも会社の人とつながっていて、趣味の話なんてできない。


 だから、「面白い!」と思っても、それを広める術がないのだ。


 一度、勇気を出して感想サイトで作品名を挙げてみたこともある。

 すると、あろうことか自演を疑われてしまった。

 何の関係もない作者さんが白い目で見られ、そのせいか分からないけれど……やっぱりエタってしまった。


 ――私にはスコッパーの資質がないのかもしれない。

 それなら、せめて個人的に応援をするだけだ。


「ブクマをつけて、評価もしてっと。リアクションもポイントになればいいのになー」


 今日見つけた作品も、なかなか面白かった。

 陰陽師と死神が戦う、ローファンタジー。

 筆致はやや拙いところもあるけれど、作者の熱意が伝わってくる。


 ドアマットから始まるざまぁや、婚約破棄からの溺愛みたいな話も嫌いじゃない。

 でも、やっぱり重厚で長く楽しめる長編は格別だ。

 ……とはいっても、私が読み進める作品はどれも途中でエタってしまうから、結末を知ることはできないんだけど。


「感想も書きたいんだけどな……」


 今までエタってしまった作品には、私は感想を書いて応援してきた。


『今回もとても面白かったです! 文章力、すごく上がってきましたね! 初期と比べると全然違います!』

『役不足、って書いてましたけど、力不足の間違いですよね? こういうのって結構読者が気にするので、直したほうがいいかもです?』

『ひょっとしたらこのキャラは後々裏切ったりするんじゃ……?! 実は兄弟だったりしそうですね!』

『続きがなかなか更新されなくて寂しいです>< 次の更新、いつになりますか? 毎日楽しみに待ってます!』


 全部もらって嬉しい感想だと思うのだけど、私の熱意は作者さんに響かなかったらしい。

 最初は返信をくれていた作者さんも、次第に返事が途絶え、やがて更新も止まってしまう。

 そんなことが、日常茶飯事だった。


 私の名前だけがずらずらと並ぶ感想欄。

 私が悪いわけじゃないはずなのに、私が感想を書くと、そのうちエタってしまう。

 世に広めるどころか、さらに地中に埋めてしまっている。


 それがすっかり私の中で悪いジンクスになってしまい、感想を書くことを控えるようになっていた。



「――あれ、ココロンさん、短編も書いたんだ」


 お気に入りユーザーの活動報告に、短編投下のお知らせが載っている。

 この人は長編連載中のはずなんだけどな、と少し嫌な予感がしながらもチェックしてみると、テンプレ直球ながら、どこかズレた内容だった。

 この人の長編はブクマ1だけ。つまり、私しかブクマしていないということだ。

 それを気にして迷走してないかな、と余計な心配をしてしまう。


「んー。嫌いじゃないんだけどね〜」


 長年の読者としての勘が、これは伸びないな、と告げる。

 それでも、多少なりとも応援になればとブクマと評価を入れて、その後に上がった長編の続きを楽しんだ。

 


「わっ、ココロンさん、ランキング入りしてるじゃん!」


 それは新たに投稿された新作短編。内容は前の短編と比べても、格段にブラッシュアップされている。

 話の展開も面白い。ランキング入りするのも納得の出来だったけれど、私が気に入った作品の作者さんがランキング入りするなんて、今までになかったケースだ。


 ひょっとして、長編のほうにも読者が流れてるんじゃないかな?

 これで跳ねてたら、初期からブクマしてる私も、スコッパーの仲間入りって言えるよね?


 野次馬根性丸出しで、ついついアクセス解析を覗いてみると、PVが跳ね上がっていた。

 ……でも、ブクマは増えていないみたい?

 絶対こっちのほうが面白いのに、今から100万字を読み進めるのは、やっぱりハードルが高いのかもしれない。

 面白くなるのは34話以降だしね。そこまでの脱落者も多いんだろう。


 私だけが知っている良作、というのも悪くない。

 でも、やっぱり私が目をつけた作品が、ランキングの上位にいる姿を見てみたい。


 今日も更新された長編の最新話は、ちょっと納得がいかない展開だった。

 感想を入れる代わりに、評価の星を4つに下げる。

 もちろん、面白さが戻ったら、また星を戻すつもりだ。


 感想を書かない代わりに、私の意思表示をそっと残して――他の作品を探しに行った。


 

 それからも、ココロンさんは長編を毎日投稿しながらも、短いスパンで短編を次々と発表し、一気に人気作者へと駆け上がっていった。

 コミカライズも見かけたことがある。

 正直、ココロンさんのあの長編から伝わってきた熱意の欠片も感じられなかったけれど、美麗な漫画家さんがついたおかげか、話題になっているようだった。


 感想サイトでも、ココロンさんの作品の名前をよく見るようになった。

 賛否両論ありつつも、話題に上がるだけですごいことだ。

 だけど、あの長編は相変わらず、あんまり伸びていないみたい。


 ――やっぱり、私が気に入った作品は伸びないのかな。

 まるで私、貧乏神みたいじゃない?


 それからも短編は次々と投稿されたけれど、長編はついにクライマックスを迎えたところで更新が止まってしまった。

 一ヶ月、二ヶ月と待ってみたけれど、再開はしないまま。

 なんだか、ランキングで彼女の名前を見るたびに、残念な気持ちになってしまった。


「あと少しだったのに。もう打ち切りENDでもいいから、完結してくれないかなぁ……」


 ――ひょっとしたら、逆スコッパーな私がブクマをつけているから、打ち上がらないのかもしれない……?


 そんなわけない、と思いながらも、不意に浮かんだ疑念はみるみるうちに膨らんでいく。

 確かに、ココロンさんは短編で有名な作者になっていた。

 でも、長編だってとても素晴らしいのに――!


 検索すればいつでも見られるし、代表作にしているから、作家名から辿れば簡単に見返せるはず。

 ……ものは試しだ。少し外して、様子を見てもいいかもしれない。


 これは、嫌なジンクスを断ち切るためだ。

 ココロンさんのためになればと思って、私は大好きな長編をブクマから外すことにした。


 


 あれからしばらくしてからも、ココロンさんの短編はランキング上位に上がっている。

 そろそろ長編も打ち上がってるかもしれないと、作品一覧ページを見に行ってみる。



 そこで気づいた。

 私の大好きだった長編が、この世界から完全に消えてしまったことに。 



 また、大好きな作品がエタってしまった。

 私が好きになってしまった時点で、こうなる運命だったのかもしれない。 


「……仕方ないか。他にも作品はいっぱいあるんだし、もっと面白そうなの探しに行こっと」


 気を取り直して、私は今日もスコップ作業に精を出す。

 きっと、私が救い上げた作品が、いつか人気作になると信じて。

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