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『私が景ちゃんを好きなんだからね。だから映美は景ちゃんのことを好きになったらだめだからね』
あれは中学生になったばかりの頃だった。好きになったらだめだよと、映美に無理やり指きりげんまんさせたのは。思い出したら芽美の胸がつきんと痛んだ。
映美は『わかった』と芽美が差し出した小指に自分の小指をからめてくれた。
だが芽美もいつしか気づいたのである。景太の笑みが映美に向けられることが多くなり、映美もまた景太にひたむきな視線を送るようになっていたことに。
映美が交通事故に遭ったのは、そんな矢先のことだった。
病室に戻ると母は景太の来訪を心から喜んだ。
「映美。景太くんが来てくれたわよ」
けれど映美は返事をするどころか、閉じた瞼をぴくりともさせなかった。交通事故に遭って以来、ずっとこんな感じだ。なのに母は落胆を隠さず、景太は表情を強張らせた。映美が反応しないのは、常識的にも現実的にも、想定の範囲内なのに。
そして私は――私は?
芽美はドアの横で突っ立っていただけだった。何の感慨もなく母と景太が憂う様子を傍観していただけだった。映美の双子の姉は自分だというのに、この場で芽美だけが蚊帳の外だった。
だけど芽美には母や景太のように悲しむことはどうしてもできなかった。それだけは――どうしても。
だって映美は生きているから。
まだ死んでなんかいないし、死ぬ予定もないから。
芽美は頑なにそう信じていた。
そこが母や景太との大きな違いだった。
◇◇◇