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「あれ? 芽美ちゃん?」
「……景ちゃん?」
病院のエントランスに入ってすぐのところで、芽美は従兄の景太に遭遇した。
空調の涼しさと驚きで、熱中症になりかけて火照った体から一気に汗がひいていく。ゴールデンウイークに会って以来の景太はなんだか大人っぽくなっていた。長くなった前髪のせいだろうか、それともジャケットのせいだろうか。
「わあ。すごい偶然。こっちに帰ってくるのは来週じゃなかったの?」
芽美は汗で濡れた前髪を急いで指先で整えた。こんなことならおとなしく院内で涼しく過ごしていればよかったと思いながら。
「都合がついたから早めに戻ってきたんだ。で、その足でここに来た」
「どうして実家に寄らなかったの?」
これに景太が苦笑した。
「映美ちゃんに会いたかったから」
「……あ、そっか。そうだよね」
私がここにいるって聞いたから――じゃなくて、映美がいるから。
確かに当たり前だ。当たり前のことだ。なのに一瞬馬鹿になってしまった自分に芽美は心底嫌気を覚えた。
「……あ。それ」
「うん?」
「ひまわり。買ってきたんだ」
大小のひまわり五本が景太の手元で仲良くおじぎをしている。ぴんと張った一枚一枚の花びらからは、力強くも瑞々しい生命力が感じられた。
「さっきそこの花屋でね。映美ちゃんはひまわりが好きだし、そばにあるだけで活力が湧きそうだからさ」
「……いいなあ」
「え?」
「ううん、なんでもない。さ、病室に行こ?」
ああ――聞こえなくてよかった。
映美はいいなあ。景ちゃんに会いに来てもらえて。ひまわりをプレゼントしてもらえて。……景ちゃんに好かれていて、いいなあ。
こんなことを考えているなんて知られなくて――本当によかった。