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次に芽美が彼を見かけたのは三日後のことだった。この日も快晴、場所はまた病院のそば。コンビニから出た直後のことだった。
くたっとしたシャツにコットンパンツ、スニーカー。色や素材はこの前と若干違っているが、全体的な雰囲気はほとんど同じで、この前と同じ黒のベースボールキャップを同じように目深にかぶっていたからすぐにわかった。
「あ、お兄さん。おーい」
グリーンスムージーのボトルが入ったコンビニの袋を高く掲げ、自分がここにいることを主張してみたものの、彼は芽美に全く気づいてくれなかった。距離が遠いせいか、はたまたノースリーブのサマーニットではなく半袖Tシャツを着ているせいか。
あの日、芽美の元から離れていった時と同じような速さで、彼は病院沿いの歩道をすたすたと歩いている。
ふいに芽美の中で好奇心がわいた。彼はいったいどこに向かっているのだろう、と。
朝から病院にいる生活に、芽美は正直気が滅入っていた。だが映美が三か月前に入院して以来ほぼ病院に日参している母に対して、双子の片割れである芽美がたったの三日で「行きたくない」と言える雰囲気ではなく……。
病室での母は反応のない映美にずっと話しかけている。他にも、手や足をさすったり、映美が好きだった音楽を聞かせたりと、常に忙しそうにしている。その必死な様に初日は芽美も驚いたが、今は日常の一部だと割り切って眺めている。ちなみに献身的な母とは真逆で、芽美はいつも手持ち無沙汰だった。今日も朝から病室の隅に座っていただけだ。だが昏睡状態、もとい眠っている映美に一方的に何かしてやりたいとは、芽美にはどうしても思えないのだった。
しかし、あまりに退屈でスマホを触っていたら「病院では駄目よ」と叱られるし、漫画や小説を夢中で読んでいれば「あなたは読めていいわね」と皮肉られるしで、そんなことばかりが続いた結果、芽美は病室では自然と何もしなくなっていた。
しかし、ただ眠っているだけの映美のそばにいて、一体何をしてやれるというのだろう。自己満足の域を出ない行為をしたいとは、芽美にはどうしても思えないのだった。
だから、こうして彼を見かけ、好奇心がむくむくと沸いてきて――追いかけずにはいられなかったのである。
つまり、芽美には気分転換が必要だったのだ。そして暇だったのである。
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