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「こっちに実家があって夏休みだから帰省していて、それで暇なの?」
思わず膝が近くなる。
「おー、名探偵だな。でも違うけど」
「そっか。景ちゃんも来週こっちに戻ってくるからそうかなって思ったんだけど……あ、景ちゃんっていうのは私の従兄で、北海道の大学に通っているすごい人なの」
「へー」
「お兄さんはどんなことを勉強しているの? 大学生なんでしょ?」
「へ? お兄さんって俺のこと?」
素っ頓狂な声をあげ、彼は自分を指さした。
「……まいったなあ。お兄さんか」
「ええっと。名前を知らないし、年上だし、でもおじさんじゃないからお兄さんかなって」
「ま、そうだよな。いいよ、お兄さんで。で、お兄さんはただの通りすがりのお兄さんってことにしておいてくれ」
ややおどけた口調、おどけた表情で片手をあげた彼は、そこですぱっと会話を終わらせるや「じゃあ行くな」と言い残し、あっさりと去ってしまった。
早足でどんどん遠ざかっていくその背中に、芽美はしばらく唖然としてしまった。
「……時間、いっぱいあるって言ってたくせに」
完全に振り回されてしまった。
だが気分はすっかりよくなっていた。
そして彼の姿が見えなくなってから芽美は気がついた。家族のことについてこんなに誰かに話したのは初めてだったな、と。
◇◇◇