表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

10. 1

 その封筒を棚の後ろから発見した時、映美の死後から実に八年もの歳月が経過していた。


「どうした?」


「あ……うん」


 芽美が封筒を差し出すと、彼もまた驚きを隠さなかった。


「……これって」


「そう。誕生日カード。毎年誕生日のたびに映美からもらっていたんだけど、一通だけなぜかここから出てきて」


 今日、芽美は自室を整理するために久しぶりに実家へと戻っていた。自室といっても映美と共用で使っていた部屋だが。


 映美が使っていた部分は映美の死後、誰も触れていなかった。埃だけは定期的に払っていたが、机に置きっぱなしのペンも、壁に貼られたやや色あせたポスターも、何もかもあの日のままになっている。


 ベッドに腰掛け、芽美は震える指で封筒の中からそっとカードを取り出した。芽美の視線が左から右へ、右からすぐに左へと動く。やがてその目から涙があふれ出した。



  お誕生日おめでとう

  同じ日に生まれてくれてありがとう

  来年も再来年も、ずっと一緒に誕生日を祝おうね



「映美……っ」


 芽美の喉の奥がぐうっと鳴った。


 壁際の棚には映美と芽美、二人で撮った写真がたくさん並んでいる。保育園、小学校、中学校――そして高校一年が終わる初春まで。ごく当たり前の日常の数々は、どれも賑やかで。そしてとても幸せそうで。


 最後に写真を撮った場所は近所の公園だった。桜の大木を背に瓜二つな少女がにこやかにほほ笑んでいる。あれから八年がたち、芽美は高校、大学を卒業し社会人となった。高校時代の面影は当然あるものの、様々な経験が芽美の顔つきに変化を与えているのも事実だった。


 映美のいない世界でも時は淡々と流れている。


 そして映美のいた痕跡はこの世界から着実に失われつつあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ