10. 1
その封筒を棚の後ろから発見した時、映美の死後から実に八年もの歳月が経過していた。
「どうした?」
「あ……うん」
芽美が封筒を差し出すと、彼もまた驚きを隠さなかった。
「……これって」
「そう。誕生日カード。毎年誕生日のたびに映美からもらっていたんだけど、一通だけなぜかここから出てきて」
今日、芽美は自室を整理するために久しぶりに実家へと戻っていた。自室といっても映美と共用で使っていた部屋だが。
映美が使っていた部分は映美の死後、誰も触れていなかった。埃だけは定期的に払っていたが、机に置きっぱなしのペンも、壁に貼られたやや色あせたポスターも、何もかもあの日のままになっている。
ベッドに腰掛け、芽美は震える指で封筒の中からそっとカードを取り出した。芽美の視線が左から右へ、右からすぐに左へと動く。やがてその目から涙があふれ出した。
お誕生日おめでとう
同じ日に生まれてくれてありがとう
来年も再来年も、ずっと一緒に誕生日を祝おうね
「映美……っ」
芽美の喉の奥がぐうっと鳴った。
壁際の棚には映美と芽美、二人で撮った写真がたくさん並んでいる。保育園、小学校、中学校――そして高校一年が終わる初春まで。ごく当たり前の日常の数々は、どれも賑やかで。そしてとても幸せそうで。
最後に写真を撮った場所は近所の公園だった。桜の大木を背に瓜二つな少女がにこやかにほほ笑んでいる。あれから八年がたち、芽美は高校、大学を卒業し社会人となった。高校時代の面影は当然あるものの、様々な経験が芽美の顔つきに変化を与えているのも事実だった。
映美のいない世界でも時は淡々と流れている。
そして映美のいた痕跡はこの世界から着実に失われつつあった。




