表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/36

1. 3

「そっか。妹が大変な状況で、しかも母親と喧嘩したのか」


 ぐすぐすと鼻をすする芽美の話にはわかりにくいところが多々ある。なのに彼は根気よく話を聞いてくれた。


 すぐそばにあったバス停のベンチに腰かけて、気づけばかれこれ十分近く過ぎていた。


「すみません、私ばかりべらべら喋って」


「まあいいけど。で、妹はあの病院に入院してるのか?」


 彼の視線の先にはさっき芽美が飛び出してきた七階建ての総合病院がある。


「そうなの。病院には行きたくないって何度も言ってるのに、お母さんが無理やり連れてくるから……。だって、夏休みだよ? なのに毎日病院に通えだなんてひどいでしょ? 春からいろんなことを我慢してきたのにって……ああ! また話が元に戻ってる! すみませんっ」


 芽美が早口で謝罪すると、「だから謝らなくていいって」と彼はベンチの背もたれに体をあずけた。くたっとしたシャツにコットンパンツ、スニーカー。服装もそうだが、どことなくゆるっとした独特な雰囲気が彼にはあった。


「お前が何度も同じ話をしたくなるのは、きっとそういう時だからなんだよ」


 キャップを一度脱ぎ、汗で濡れた髪をうっとおしそうにかき上げつつ、彼が言った。


「お前がおしゃべりだからとか、馬鹿だからとか、子供だからとか、そういうことじゃない。今話さなくちゃいけないから話しているんだと俺は思うぞ?」


 キャップをもう一度かぶり直しながら横目で問われ――それはまるで嘘のつけない究極の問答、問いかけのようで、芽美は操られているみたいにうなずいていた。


「……うん」


「な。だったら話せよ。さいわい俺には時間はいくらでもある」


「そうなの?」


「おいおい。そこは少しは遠慮してくれ」


 困ったように苦笑する彼の目尻にできた皺に、なぜだろう、芽美は彼に対して急速に親しみを覚えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ