7. 2
映美の体調が急激に悪化したのは、夏休みもあと数日で終わるという時だった。
眠り姫のように静かに眠っていた映美が、一時痛みに顔をゆがめ、やがてまた静かになった。その後、芽美の容貌は人形のような硬質なものに変化してしまった。
「……映美」
ずっと日光に当たらない肌はたった数日でさらに不自然なほどに白くなった。青白さの中に異質な気配を潜ませているその白は、健やかさとは対極にあった。もはや今の映美は生きていることが不思議なくらいだった。
「映美」
そっと手を握る。
けれど真っ白な映美の手は、日に焼けた芽美の手を握り返すことはなくて。
「映美」
かさかさに荒れた映美の唇が芽美の名を紡ぐこともなかった。
*
「今日が山場になると思います」
お医者様にそう言われたと、病室に戻って来た母が憔悴した面持ちで言うのを芽美はぼんやりと聞いていた。そこには意外性はなかった。奇跡も絶望もなく、至極当たり前の結論を提示されただけだった。とうとうこの日、この瞬間がきたのだな……と。
景太も何も言わなかった。ただ、感情を出さない芽美と違い、景太は嗚咽を堪えるように口元を押さえ、やがてたまらずといった感じですすり泣きだした。その泣き声が狭い病室でやけに大きく響き、男の人でも泣くことがあるんだなと芽美が場違いなことを考えていたら、母もつられるように泣き始めた。
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