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7. 1
それからも夏という季節を踏破する勢いで芽美は歩き続けた。
カンカン照りの空の下を。厚くたちこめた雲の下を。大粒の雨がふりしきる中を。
排気ガスをまき散らかす車が、自転車が、芽美の横を何台も通り過ぎていった。老若男女、数えきれない人とすれ違った。
すれ違う人々の視線は概ね二種類に分けられた。一つは、無関心。そしてもう一つは――。
「お前も俺のように変人だと思われているみたいだぞ」
花屋の前を通ると、彼にたまに声を掛けられた。
「いい加減やめたらどうだ」
苦言めいた助言を芽美は無視し続けた。するといつしか、彼は店の外に出てこなくなった。ただ、店内から彼の視線を感じない日はなかったが。
母はもう何も言わない。ただ、芽美に毎朝おにぎりを持たせるようになった。ちょっとしょっぱい塩おにぎりはコンビニのパンよりもおいしいし、力が湧いた。
「芽美ちゃん。これ使って」
ややあって、芽美は景太からウォーキングシューズをプレゼントされた。カナリアイエローが目にも鮮やかなシューズは芽美の足にすぐになじんだ。
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