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自分でもいまいち説明になっていないと芽美は思う。なぜ歩くことにしたのか、歩くことが映美のこととどんな関係があるのか、大切なことはまったく説明できていない。だがまだうまく言葉にならないのだ。ただ、たとえ言葉にならなくても、今の自分にとって歩くことはとても重要なことになっている。それだけは芽美にもわかっていた。
母は怒るわけでも追及してくるわけでもなく、ため息交じりにこうつぶやいた。
「……あなたはあなたよ」
「それでも私も何かしたいの。私にしかできないことを。映美のために」
すると母が芽美をじっと見つめ、言った。
「それは駄目よ。歩くなら、自分のために歩かないと」
こんなふうに芽美が母と真正面から向き合うのは随分久しぶりのことだった。
「全部自分のためにしなさい。映美のためじゃなく、自分のために。……でないと後で辛い思いをするのは、芽美、あなただから」
母がそっと目を伏せた。
「お母さん……」
その愁いを帯びた様子から芽美は気づかされたのだった。映美が死ぬことを母はすでに覚悟している――と。死や痛みを取り除いてやりたくて映美に献身的に尽くしているわけではなく、死ぬまでの間に映美にしてやりたいことのすべてを実行しているだけなのだ、と。
そう思わなくてはやりきれないというのが正直なところかもしれない。ただ、母の言わんとするところは芽美にも理解できた。かなわない願いをとなえ続けるわけではなく、抗えない運命に立ち向かうのでもなく、今自分がしたいと思うことをする。ただそれだけなのだ。……それしかないのだ。
「うん。わかってる」
「そう」
ならいいわ、と母が薄く笑った。
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