6. 2
歩くこと自体は人間にとって日常的な行動だ。だが量や質が日常の範囲を超えたことで、芽美の体は慢性的な痛みを抱えるようになった。筋肉痛はもちろんのこと、足腰や股関節の痛み、日焼け、足の裏にできたまめはつぶれては再生するを繰り返した。
「いたたた」
湯船につかると体のいたるところが悲鳴をあげるので、入浴はシャワーでざっと流すだけになった。女子高生としてあるまじきかもしれないが、最低限の清潔さを保てていれば十分だ。
「……髪、邪魔だなあ」
ずっとセミロングだった髪も次第に持て余すようになった。
疲労で半分眠ったような状態でドライヤーをかけていたら、思考が整うよりも先に芽美ははさみを握っていた。鏡の前に座り、半分濡れた髪の先端をつかんで刃を入れていく。試行錯誤の結果、肩の高さすれすれのボブが完成した。
鏡の中に映る自分は自分ではないようだと芽美はぼんやりと思った。
髪型も、日に焼けて赤茶けた肌も、映美とは全然違った。
映美と芽美はいつも似たような恰好をしていた。「どっちがどっちかわからない」なんて言われるのが面白かったのもある。中学生になってからは全く同じ格好をすることはなくなったが、同じ服で色だけを変えたコーディネートは高校生になっても続けていた。そして髪の長さは二人ともセミロングにしていた。髪型は各々好きにしていたが、長さは二人して揃えていたのだ。
「映美……」
芽美は思わず鏡の中に片割れの姿を探した。けれど伸ばしたかけた手をぐっと握りしめ、耐えた。私は私で、映美は映美だ。そんなことは当にわかっている。映美がどんな人生を送ろうが、どんなふうに人生を閉じようが、それは私の人生ではない。私の人生は私のもので、映美の人生は映美のものだ――と。
「でも……同じでいたかったなあ」
ずっと同じでいたかったのだ。
「でも……同じではいられないんだね」
いつだって同じではなかったから。
「痛い、な……」
鏡の中の芽美は泣きそうな顔で無理して笑っていた。
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