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「映美がいなくなったら私、もう……」
生きていられない。
その一言を芽美が発するよりも先に。
「……この前ネットのニュースで見たんだけど」
同情や共感どころか、諫めることもせず、突然景太が語りだした。
「自分ちの庭を歩き回るだけで何億っていう寄付金を集めたおじいさんがいるんだって」
戸惑う芽美にかまうことなく景太は話を続けた。
「僕はそのニュースを聞いてすぐに片山のことを連想した。片山っていうのは僕の高校の同級生で、今はこの病院のそばの花屋で働いている」
「……え?」
驚きのあまり、声が出た。それとともに芽美の目前に揺らめいていた死への誘惑が一瞬で消え失せた。毒気も抜かれた。芽美が現実に引き戻されたことで景太が見るからにほっとした。
「片山は高二のときに弟を失くしていてね。しばらく学校を休んでいたんだけど、戻ってきたらこの辺りを歩くようになったんだ。当時から有名だったよ、片山のことは。気が触れたんじゃないかと心配する人もたくさんいた。弟の亡くなった病院の周りを飽きることなく歩き続けているんだ、そういう反応の方が自然なんだと思う。……でもね」
そこで景太が言葉を区切った。
「でも僕は片山のひたむきな姿に言葉にならない感動を覚えていた。僕も片山がなぜ歩き続けているのかは知らない。直接訊ねたことはないし、訊ねられるほど親しい関係でもなかったから。だけど芽美ちゃん、さっき言ったよね。あいつは自分を痛めつけるために歩いているんだって。でもそれは違うはずだって」
こくんと芽美がうなずくと、景太の表情が複雑なものになった。やや眉をひそめ、唇をひきしめ、頬をふるわせ――そしてなんだか泣きそうになった。
「僕もそう思いたい」
◇◇◇




