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カンカンに照りつける太陽は朝から元気だ。空は宇宙まで見通せるかのような澄んだ青色をしている。雲はどこぞに吸い込まれてしまったのか影も形も見えない。
さっき病室を飛び出したばかりなのに、芽美の額にはすでに汗が噴き出していた。
足元のアスファルトをにらみつけながら、芽美は大股でぐんぐん歩いていく。目的地はない。病院にいたくないだけだ。この辺りのことはよく知らないが、ド田舎だからコンビニくらいしかないだろう。
行き場のないもやもやといら立ちを吐き出したくて、芽美は目の前に現れた大きめの石を思いきり前方へと蹴飛ばした。
「えいっ」
でもちっともすっきりとしない。それどころか、サンダルゆえにむき出しのつま先に石が当たって痛い思いをしただけだった。
「――いてっ」
自分以外の人間が発したその声に、芽美はとっさに顔を上げた。すると数メートル先に頭を抱えてしゃがむ男性がいた。その意味するところはすぐに察せた。
「すみません、大丈夫ですかっ?」
芽美はあわてて男に駆け寄った。
従兄と同い年くらいの男は、多分、大学生だろう。これに芽美はほっとした。大人の男性に怒られるのは苦手だが、従兄相手に怖いと思ったことはない。
「……ん?」
彼が痛みに細めた目でやや睨むように芽美を見上げてきた。つばの大きな黒のベースボールキャップの下からぐっと覗き込んでくるから必要以上に圧迫感がある。
「なに。お前がやったの?」
低い声、不機嫌な表情――どれも従兄とは全然った。さらに、
「お前、中学生か?」
失礼なことを言われて、芽美はついかっとなった。
「私、高校生です。しかも二年生」
これに彼は素直に「そっか。悪い」と顔の前で片手を立てる謝罪のポーズをとった。
「でも高校生なら人がいる方に石を蹴ったらダメだってわかるよな」
「は、はい。すみませんでした」
おっしゃるとおりと頭を下げたら、頭頂部をくしゃっとなでられた。
「……え? どうして?」
芽美が顔を上げると、彼は小さく首をかしげた。
「うん?」
「だ、だって」
「ああ、ごめんな。小さい子を相手にするようなことをしちゃったな」
「違います。ええと、その……私が悪かったのにまるでいい子にするみたいに頭をなでるから……それで」
ああ、と彼が声をあげた。
「謝ることって難しいからさ。だからよくできましたのご褒美」
「……ご褒美?」
束の間、見つめ合ってしまった。
「ん?」
彼が優しく微笑んでくれたから……だから。
「うわっ。どうしたんだよ」
芽美は涙があふれだすのを止めることができなかった。
*