5. 2
「わ、私はただの女子高生で。今まで誰かの死に向き合ったことも……なくて」
ぽつぽつと語りだした芽美に、景太が「うん」と柔らかく相づちを打つ。
「だから映美はすぐに治るって……ずっと思ってた。だって映美は私の片割れだから。私が頑丈で健康なんだから映美もいつか目を覚まして完治する、すぐに普通の生活に戻れる……そう信じてたの。ううん、今もそう信じてる。……信じたいって、思ってる」
「うん」
「ね、景ちゃん。景ちゃんは映美のことが好きなんでしょ?」
「そうだよ」
突然の問いかけにも景太は動じることはなく静かにうなずいた。
「だったらどうして毎日映美に会いに来れるの?」
「……え?」
「私は……私はもう限界。というか、ずっと前から限界。もう映美に会いたくない。あんな映美見たくない。私に似ていない映美なんて……もう見たくないよ」
景太の抱えるひまわりがいよいよもって鮮やかさを増していくようで、芽美はたまらず景太に背を向けた。ひまわりは映美が一番好きな花だ。黄色も映美が一番好きな色だ。……どちらも芽美だって一番好きなものだ。だけど今は見たくなかった。
「……景ちゃん、ごめん」
それでもこれだけは言い切れる。
「景ちゃんよりも私の方が映美のこと好きだから。世界で一番映美を好きなのは私だから」
鼻がつんとしてきた。
「だって私、映美がいない人生なんて考えられないもの。景ちゃんはこれから他の人に恋することができるだろうけど、私にとっての映美は映美だけだから。映美がいなくなったら私はもう空っぽになるしかないから」
私を形作る何もかもが映美ありきだったから――だから映美がいなくなったら私は空っぽになるしかない。
こうやって話していたら、芽美はまた一つわかった。母の理解も景太からの恋心も、心の底から望んでいやしないことを。そんなもの、映美がいない世界では無価値だ。底なしの空っぽの穴に何を入れたって、満たされることは永遠にない。
「どんな映美になったって私は映美が好き。今の映美を見たくはないけど……でも好きなの。たとえ私の前からいなくなったって、映美よりも大切な人なんていない。できない」