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「それでも……わかりたい時やわかってほしい時がある、から」
震える口で芽美がなんとか言葉を紡いだものの、
「そう言うのを我がままって言うんだよ」
間髪入れずに彼が言い返した。
「都合のいい時だけ寄り添ってもらおうなんて考えが甘いんだよ。ていうか、お前の状況が俺に何の関係があるんだ? さっさとここから出ていけ」
こんなふうに誰かから強い怒りを向けられた経験は芽美には一度もなかった。ここまで完膚なきまでに拒まれたことも、当然ない。彼の前に立っているだけで嘘みたいに膝が震えてしまっている芽美は、しかしきつく唇を噛んでその場で耐えていた。
歩いている時の彼の背中、肩や腕、足の動かし方。ちっとも速度を落とさないぶれのなさ。あれがただの散歩ではないことには、いつからか気づいていた。彼が言うような『ただ歩いている』だけの散歩ではないことを。
それは芽美以外の人にも十分すぎるほどわかっていて。
その行為を続けてきた三年という年月は十分すぎるほど長くて。
そしてその行為の理由が自分を痛めつけるためであると知って。
でも『ただ痛い思いをしたいだけの行為』には芽美にはどうしても思えなくて――。
「お兄さんは私が知りたいことを知っているような……そんな気がしたの」
揺れる眼差しで、芽美は必死に彼を見返した。