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「……それはお前の入院している妹が関係しているのか?」
少しの間の後、問われ、ためらいながらも芽美はうなずいた。
目の前に迫っている映美の死が――映美がいなくなる未来が怖い。怖くて怖くてたまらない。
そう、芽美は映美が死にゆく現実に耐えがたい痛みを覚え、その痛みの先に死ぬまで癒えないであろう悲しみがあることに狂いそうになっていたのだった。母も景太も誰も気づいていないが、大げさでも誇張でもなく、芽美は発狂寸前になっていた。
「痛くて、痛くて……苦しいの。すごく苦しいの。なのにどうしてお兄さんは自分から痛い思いをしようとするの?」
高ぶりつつある芽美に対し、彼は冷静な態度を崩そうとはしなかった。
「生きていれば誰だって苦しいんだよ。そして痛みにも慣れていくものだ」
「そう、なの?」
彼の無言を肯定と捉えれば、芽美は一つ腑に落ちた。
「……ああ。だからお兄さんは平気なんだね」
「どういう意味だよ」
「一生懸命歩いているけど苦しそうではないから」
「……なんだって?」
彼のまとう空気がはっきりと変わった。
「あ……」
失言した――と芽美が気づいたときには遅かった。
「お前に俺の一体何が分かるっていうんだ……!」
引き起こされた怒りは爆発めいていて、彼の声量と凄みに芽美の足が自然と後退した。だが彼は留まることを知らなかった。
「俺の心は俺のものだ! 他人であるお前に理解できるわけがないだろう……!」
ぐっと近づいてきた彼の顔は般若のように変貌していた。
彼の言うことは正論だ。実際、芽美も彼と同じ考え方をしている。誰にも自分の心境は理解できないと決めつけ、それゆえに母や景太とは一定の距離を置くようになったのだから。二人に説明するのも無駄だと決めつけているのも、そう。
だけど――。