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「……そうじゃなくて!」
たまらず芽美が反論した。だが、
「じゃあ何なんだよ。こんなところまで来て」
彼に指摘され、芽美は自分の浅はかさに気がついた。
たった一度言葉を交わしただけの他人の職場に踏み込んで、プライベートを詮索しようとして。芽美が彼の立場でも同じ態度をとるだろう。……だが。
「知りたかったの……。どうしてお兄さんが歩いているのか知りたくて……それで」
芽美が言葉を続けるよりも先に、彼が言葉をかぶせてきた。
「俺はお前の好奇心を満たすための道具じゃない。お前の卑屈な感情を肯定するための都合のいい人間でもない。悩みがあるなら友達かカウンセラーのところに行くんだな」
「……そんなつもりで来たわけじゃないよ」
芽美はスカートを握りしめ、ぐっと唇をかんだ。
「……今日のお兄さん、意地悪だ」
「これが俺の本性なんだよ」
「……ほらまた。切り返しが容赦なさすぎるよ」
「何言ってるんだ。俺は大人だぞ?」
「大人なら子供に優しくしてくれてもいいでしょ……?」
芽美が泣きそうなのは一目瞭然のはずだ。だが彼はすげない態度を崩そうとはしなかった。
「子供なら大人の仕事の邪魔をしないでくれないか」
「わ、私はただ」
スカートを握りしめる芽美の指に力がこもった。
「私はただ……教えてほしくて」
彼の眉間にぐっと力が込められた。その仕草一つで芽美の問いかけを拒絶していることは明らかだった。だが無視して芽美は再度訊ねた。
「教えて。自分を痛めつけるために歩くってどういうことなの? ……だって私、今とても『痛い』から。お兄さんのように歩かなくても、何もしていなくても痛いから」