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4. 1

「……お兄さんっ!」


 突然花屋に入ってきて大声を出した芽美に、黙々と花の手入れをしていた彼が驚いた表情になった。


「……お前、この前バス停でわんわん泣いていた奴か」


 感動の再会なんて期待していなかったが、気負ってやって来た芽美にとってその一声は十分な肩透かしとなった。


 そんな彼は仕事場である花屋でもいつもの服装をしていた。くたっとしたシャツ。コットンパンツ。スニーカー。ただ、黒のベースボールキャップはかぶっていなくて、代わりに使い込まれたモスグリーンのエプロンをしていた。


「どうしてここに来たんだ。花が欲しいのか?」


「ううん、違うの。お兄さんに訊きたいことがあって」


「なんだよ。藪から棒に」


「教えて。お兄さんはどうしていつもこの辺りを歩いているの?」


 彼は一瞬虚を突かれた表情になったものの、それは本当に一瞬のことだった。


「散歩が好きなんだよ」


「嘘。私、知ってるんだから。お兄さんが同じ場所をぐるぐる歩いていること」


「……そっか」


 彼は物思う様子で手に持つ剪定ばさみの先を見つめていた。けれどしばらくすると剪定ばさみを机に置き、芽美に鋭いまなざしを向けた。はさみの先端そのものを向けられたのかと芽美が錯覚するほど、彼の視線は鋭いものに変貌していた。


「お前も迷惑だって言いに来たのか」


「……え?」


「昨日店長に小言を言われた。俺が歩くことで小学生が怖がるんだと」


「ちがっ……!」


「何が違うんだよ」


 私は噂話に興じていたあの二人とは違う。そう言いたかったが、彼の強張った表情、尖った双眸の前で、芽美は何も言えなくなった。


「自分が正しいと思い込んでいる奴、自分の行動こそが正義だと思っている奴ほど迷惑なものはないよな」


 彼の一言一言が芽美の言葉をさらに封じていった。


「俺はただ歩いているだけだ。はあはあ荒い息を吐きながら子供を物色しているわけじゃない。他人の敷地に入ったわけでもない。露出趣味があるわけでもない。変な恰好、奇抜な外見をしているわけでもない。ただ歩いているだけだ。それでどうして非難されなくちゃいけないんだ」



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