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とはいえ、夏も真っ盛りとなると外で過ごすことそのものがきつくなってくる。
強烈な直射日光には十分な殺傷能力があるから、長い間浴び続けられない。しかし木陰にいても暑いものは暑く、じっとしていると蚊に刺されるというおまけがつく。日焼けと虫刺されのダブルコンボに悩まされた結果、芽美は考えをあらためた。だったらずっと病院の中にいようと。
その日、芽美は朝から院内のトイレの個室にこもっていた。清掃のタイミングさえ見極めれば、このB棟一階の西、最奥の個室が一番居心地がいいことに気がついたのだ。病室にいるよりも、便座に座ってスマホとイヤホンを使って動画を観ている方がよっぽど気楽だった。
しばらくすると二人のおばさんがやって来て手洗い場で世間話を始めた。何号室の佐藤さんが昼食を全部残したとか、何号室の山田さんのところに誰もお見舞いに来ないとか、そういったことを。
よくもまあトイレで他人のことをぺらぺらと喋れるなと呆れたが、会話の中身から芽美は遅ればせながら気がついた。ここが病院のスタッフ専用のトイレであることに。
看護師または看護助手なのだろう、手洗い場の二人はこの時間はここで無駄話をすると決めているのかなかなか出て行ってくれなかった。
「ねえ、知ってる? あの花屋の店員がとうとう注意を受けたって」
「へえ、そうなの。でも、とうとうというか、やっとっていう感じよね」
誰か素行の悪い人がいるのだろうかと、つけっぱなしのテレビから流れるワイドショーに対するように芽美が聞き流していたら、「いつもこの辺りを歩いていて不審者みたいだものね」と聞こえ――芽美の耳が誇張ではなく大きくなった。
あの彼の話だと直感したのだ。