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朝からやって来た病院のロビーは独特な気配に満ちていた。そこにいる人々も、匂いも、外部とは全然違った。まるで別の国にやって来たような、そんな違和感すらあった。
「……やっぱり私、行きたくない」
ここに来るまでに芽美は何度も同じ言葉を繰り返していた。
「もう。さっきから同じことばかり言わないでくれる?」
振り返った母は呆れた表情をしている。
「あなたの双子の妹が入院しているのよ。なのにどうしてそんな冷たいことを言えるの」
芽美が何も言えずにいると、母はおもむろに腰に手を当て、芽美を見据えた。
「あのね。前から言おうと思ってたんだけど」
だったら言わなければいいのに、と芽美は思う。だが母の方も相当鬱憤がたまっているようで口を閉ざすことはなかった。
「芽美はもう少し映美のことを心配してあげるべきじゃないかしら。なのに、部活だ勉強だと言い訳ばっかりして、全然お見舞いに行こうともしないんですもの」
「心配は……してる」
「だったら」
「でも眠っている映美のそばにいても意味なんてないもの」
「……芽美っ!」
思ったよりも大きい声を出してしまったのだろう、母がはっとした顔になった。ロビー一帯を視線が忙しなく動き出す。
その瞬間を芽美は見逃さなかった。
「あ、待ちなさい……っ!」
やや遅れて発せられた母の制止は何の効果もなく、芽美はその場から逃走することに成功したのだった。
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