万華鏡の瞳
こちらは小説ではありません。
短編漫画を想定としたショートシナリオですので、お気をつけください。
登場人物
色華(16)百々目鬼
芙蓉(17)妖狐
【1ページ】
○百々目鬼一族屋敷・色華の部屋・(夕方)
★縁側につながる障子が開いており、そこから室内に光が入り込んでいる。
部屋の真ん中には色華(5)が座って、折り紙で一人遊んでいる。引き目。
★縁側から入ってきた風に吹かれて、折り紙が飛んでいく。折り紙の方に振り向き手を伸ばす色華。
色華「あっ」
★色華は障子を閉じ、その時に袖がずれ腕が見える。
★色華は障子を閉じた自分の腕を眺める。腕には閉じられた瞼が並んでいる。
色華「…どうして私には百々目鬼としての目が無いの?」
★外からトントンと言う足音。色華はハッとした様子で顔を上げる。
色華M「お父さま?お母さまもいるのかな…」
【2ページ】
○同・廊下・(夕方)
★色華の父(31)が色華の母(29)を連れて、廊下を歩いている。
色華の父は目を閉じながら着物の袖に両手を入れて組み、母は伏せ目で手を前で揃えている。正面図。
色華の父「色華の様子は?」
★困ったように目を閉じて、ゆるりと首を振る様子の斜めからバストアップ。
色華の母「変わらずみたい。やっぱりあの子は…」
★色華の父はため息を吐きながら、眉間に皺を寄せ手を当てる。
見えた腕にギョロっと複数瞳が現れている。
色華の父「後天的なものも無かった、か…」
色華の母の声「…ええ」
★色華の父の足が一歩を踏み出す。膝から下のアップ。
色華の父「ならば…」
【3ページ】
○同・色華の部屋・(夕方)
★襖の向こうに耳を傾け、目を大きく開く色華が真ん中に立っている。
襖が透けて、廊下を歩く両親が映されている。
色華の父「あいつはもう、我々百々目鬼一族には馴染めぬ」
色華の父「不良品だ」
★通り過ぎていく足音を聞きながら、佇む色華に影がかかる。
俯き、前髪で目が見えなくなっている。横からの構図
色華M「…どうして」
★色華は襖に背を向け、俯き唇をかみながら座り込む。正面図。
色華M「どうして私だけ」
【4ページ】
★色華は自分の腕を握り、爪を立てる。腕のアップ。
色華「こんなの、人間と変わらない」
★色華が座り込んだまま手を目に当てる様子を、夕陽が照らしつけている。横からの構図。
色華「……う」
★色華は顔のそばに上げた手を眺めながら、大粒の涙を流す顔の正面アップ。
色華「ひっ…ううぅ〜…」
色華M「こんな私なんて、嫌い」
★真っ暗の背景に心情だけ。
色華M「大っ嫌いだ」
★(時間経過)
【5ページ】
○小物屋「細麗」・店内・(昼)
★ボーッと手元を見て棒立ちする色華(16)。お店の看板が写るように引きで。
芙蓉の声「……は」
芙蓉の声「…色華!」
★芙蓉の声に色華はハッとした表情を見せる。
色華「…えっ?」
★心配そうな表情を浮かべながら狐耳をへにゃりとさせ、色華の顔を見る芙蓉。手は色華の肩に添えられている。芙蓉がメインに映る。
芙蓉「大丈夫?休憩の時間だよ」
★ぎこちなく微笑む色華。その様子を見て芙蓉は訝しげな表情を浮かべる。
色華「あぁ、うん… ちょっとボーッとしてただけ」
芙蓉「…そう?」
【6ページ】
★芙蓉が優しげに微笑みながら視線を横に移し、隣の商品台に手を伸ばす。芙蓉のバストアップ。
芙蓉「…ね」
★綺麗な飾りがついた小物入れが芙蓉の手の上に乗っている。小物のアップ。
芙蓉の声「これ、すごく素敵だよね」
芙蓉の声「売れ行きもいいし」
★芙蓉が色華の手に自分の手を添えて小物を乗せる。色華はきょとんとした表情で乗せられた小物を見る。
色華「そう、なのかな」
芙蓉「ふふっ そうなの!」
【7ページ】
★色華は長い黒髪を指先でいじりながら、伏せ目がちな表情を浮かべる。
色華「でも、私にオシャレを教えてくれたのは芙蓉だよ」
★芙蓉が指で自分顔をつきながら、あっけらかんと言い放つ。色華はびっくりした様子。二人ともデフォルメで。
芙蓉「私はこれを作れるくらい器用じゃないもん」
★色華が狼狽えた様子で焦っている。
色華「で、でも…」
★口角を上げた芙蓉の口元アップ
芙蓉「でも、じゃないよ」
【8ページ】
★小物を持つ色華の手ごと芙蓉が両手で包み込む。芙蓉は目を閉じて祈っているようなポーズ。明るい雰囲気で。
芙蓉「もっと、自分に自信持っていいんだよ」
★芙蓉を見つめる色華。前髪が瞳を隠す。
色華M「あぁ…」
色華M「気を使ってくれたんだ」
★色華の口元がキュッと結ばれる。
色華M「芙蓉はいつも優しくて、暖かくて」
★色華の小物を持っていない反対の手がぎゅっと握られる。
色華M「私も、そんな風になれたら」
【9ページ】
★お客さんの声にびっくりする二人。芙蓉は尻尾が膨らむ。デフォルメ。
客の声「すみませーん」
★芙蓉がお客さんの方に振り向く。芙蓉の後ろの奥の方にお客がいる。
芙蓉「あっ、はーい!」
芙蓉「今行きますね!」
★色華の手から離れていく芙蓉の手のアップ。
色華の声「あ…」
★芙蓉が色華に対し手を合わせながら、お客の方へ小走りしていく。
芙蓉「ごめんっ、先に休憩入ってて!」
★色華は胸の前で温もりの残る手をもう片方の手で握る。
【10ページ】
○同・裏方の部屋・(昼)
★裏方に続くのれんをくぐる色華。
★色華は部屋の椅子に腰掛け、持ってきてしまった小物を机に置く。
色華M「ただオシャレが好きだった」
★色華は机の上に上体を寝かし、小物を見る。
色華M「身を着飾れば、下にある不完全な体が 遠くなるような気がして」
★机の上に置いた小物を、色華は指先でつつく
色華M「小物も、芙蓉が喜んでくれたから、作り始めた」
【11ページ】
★体を起こし、天井を見上げる色華。
色華「こんなお店を持てるなんて 思わなかったなぁ」
★色華は椅子を引き、入ってきたのれんの方を見る。
色華「芙蓉は、本当にすごい…」
★色華は目を閉じ、そのまま考え込む。
色華M「私には芙蓉のような愛想も、可愛らしさもない」
色華M「接客も苦手で、制作しかできない」
★色華は俯きながら、ゆっくりと目をあける。
色華M「でも何か」
色華M「私も何か恩返しがしたいんだ」
【12ページ】
○街中・大通り・(朝)
和風の街、店が両端に立ち並ぶ。
★時間経過 小さめ
★色華が自分の働く小物屋に向かって歩いている
★小物屋「細麗」の前に人だかりができている
モブ1の声「おい、また窃盗だってよ」
モブ2の声「あの店の嬢ちゃんも気の毒だねぇ」
★色華が青ざめた表情で、人だかりの中を掻い潜って進む。
色華「す、すみませ…」
色華「ちょっとだけ、通して…!」
【13ページ】
○小物屋「細麗」・店内・(朝)
★勢いよく店の扉を開ける(スライド式)色華。切羽詰まった表情を浮かべている。
色華「芙蓉!」
★店内の商品台の前で、色華に背を向けて棒立ちする芙蓉。
芙蓉「…っ」
★色華に振り向いた芙蓉は震えていて、今にも泣きそうな表情を浮かべている。バストアップ
芙蓉「色、華……」
【14ページ】
★芙蓉に慌てて駆け寄る色華。色華の手は芙蓉の両肩を包むように添えられている。
色華「芙蓉、一体何が…」
★芙蓉が苦しげに堰を切ったように泣き出す。
芙蓉「わた、私…!」
★色華は戸惑いながらも、泣いている芙蓉を抱きしめる。
色華M「ほんとに、何があったの…?」
★色華は芙蓉を抱きしめながら、顔を上げて店内を見渡す。
色華M「そういえば、さっき芙蓉は何を見て…」
【15ページ】
★目を見開く色華。目元のアップ
色華「え」
★店内はあちこち荒らされて、小物が落ちている。
★芙蓉を抱きしめる腕に力が入る色華。絶句した表情で固まる。
色華M「嘘だ… 昨日まで全部普通だったのに」
★色華の胸の中に収まっていた芙蓉が啜り泣きながら、話し出す。
芙蓉「うっ… ほんとに、ごめんね…」
【16ページ】
★そっと色華の胸から離れた芙蓉は、目元を両手で押さえる。
色華の声「芙蓉何も悪くないよ…」
芙蓉「違う、違うの…! お店の事も悔しいし悲しい」
★芙蓉が片手を自分の頭へと上げ、髪をぐしゃっと掴む。
芙蓉「でも、一番何よりも取られちゃいけなかったのは…」
★芙蓉が握った部分へとフォーカスする。
★色華がハッとした表情を浮かべ、顔色を変える。
色華「…あっ!」
★* * *(フラッシュ)
笑顔で芙蓉が頭につけた髪飾りに触れる様子。
* * *
【17ページ】
★泣きながらその場に崩れ落ちる芙蓉。
芙蓉「髪飾り… 色華が初めて作ってくれた物だったのに…!」
★色華は泣き崩れる芙蓉を見て、顔に影を落とす。
色華M「どうして、芙蓉がこんな目に合わなければいけないのだろう」
★怒りで握りしめられる色華の手。
色華M「…許せない」
★怒りで目が座った色華の顔。顔のアップ。
色華M「絶対に許さない」
【18ページ】
★泣き続ける芙蓉の元へと一歩進む色華。
色華「芙蓉、泣かないで」
★色華はしゃがんで、顔を覆っていた芙蓉の手を取る。
色華「私ね、いつも芙蓉に助けられてた」
★芙蓉が目にいっぱいの涙を溜めながら、色華の方を見る。
色華「だから今度は、私が助ける番」
芙蓉「…え?」
★色華がまっすぐに芙蓉を見つめ、微笑む。
色華「絶対に取り返すから、待ってて?」
【19ページ】
○街中・路地・(夜)
★月の明かりだけが照らす路地を、色華が歩いている。
★色華は自分の瞳が閉じた腕を真剣な表情でチラリと見やる。
色華M「こんな所で手先が器用な事がいきるなんて」
色華M「皮肉みたい」
★遠くから小さくジャラジャラという音が聞こえる。
★色華は音に足を止める。
色華「…っ!」
★大人しそうな色華の瞳からスゥッとハイライトがなくなる。
【20ページ】
★下卑た笑いを浮かべた男が、ジャラジャラと音を立てながら路地を歩いている。
盗人「ひひひっ」
★男の対面側から色華が歩いてくる。暗がりで顔は見えない。
★色華と男がすれ違う。
色華「…お前か」
★男が色華を方を振り返るが、色華はそのまま歩いていく。
【21ページ】
★男が歩き出そうとするが、違和感に足を止める。
盗人「…あ?」
★男の腰にかかっていた袋がないことに気づく。
★男はもう一度振り返り、色華が歩いて行った方向を睨みつける。
盗人「あの女!」
★男が鬼の形相で来た道を走る。
盗人「くそ!待ちやがれ!」
【22ページ】
★男が角を曲がると、無人の道が広がっている。
盗人「…は?」
★男に色華が塀の上から襲いかかる。男は前に倒れていく。
盗人「ぐぅっ!?」
★男の背に色華が跨り、押さえつけている。色華の後ろには月があり、逆光で顔はよく見えない。目だけが光っている。
盗人「いって…ぇ」
【23ページ】
★男が色華の下でもがきはじめる。
盗人「おい!てめえよくも俺を嵌めやがったな!?」
★色華は男の腕を素早く縄でまとめる。
色華「じっとしてて」
盗人「あぁ!?言うこと聞くわけねーだろ!」
★男の顔の横に、色華が短刀を刺す。
盗人「お、まえ…」
★色華が足も縄で纏める。
色華「貴方には、うちの店のツケを払ってもらわなきゃ」
【24ページ】
★色華が男からスった袋を開け、中を確認する。
色華「…あった」
★男がうつ伏せ状態から盗み見るように、色華の腕を忌々しげに見つめる。
盗人「やっぱり、百々目鬼かよ」
★色華が皮肉めいた笑いを浮かべ、首を掲げる。
色華「ま、出来損ないだけど」
色華「スリが得意な妖怪であるおかげで、手先は器用なのは利点かな」
★色華が真顔になり、男を見下す。
色華「さて、貴方自身にもツケを払って貰わないと」
【25ページ】
★冷や汗をかく男に対し、色華が男の顔に手を伸ばす。
色華「貴方の目」
色華「この小物達みたいに光ってて綺麗だよね」
★男が怯えた表情を見せ、必死に暴れようとする。
盗人「いや、だ」
盗人「来るな!!」
★男の抵抗を押さえつけながら、口元にも縄を当てる色華。
色華「大人しくしててね、傷がついたら勿体無いから」
★色華の手が男の眼球に伸びる。
盗人「〜〜っ!」
【26ページ】
★見開かれた男の片目のアップ。
★引き抜かれる男の眼球。
N「ぐちゃり」
★色華は機嫌良く月に瞳をかざす。
色華「ふふ」
★とった男の瞳を腕の閉じた瞼の中へ嵌め込む色華。
【27ページ】
★ピクピクと痙攣する男の側にしゃがむ色華。
色華「片目は置いといてあげるね」
★色華は立ち上がり、月を見上げる。
色華「でも、もしまた盗人なんかしようとしたら」
★男の方を振り返り、不気味に笑う色華。
色華「もう一つも、無くなっちゃうかもね?」
★霞んだ男の視点。色華が路地から去っていく様子が見える。
【28ページ】
○小物屋「細麗」・店内・(朝)
★芙蓉に男から取った袋を渡す色華。
芙蓉「色華?これは?」
★色華は芙蓉に微笑みを向ける。芙蓉は困惑しながら袋を開ける。
色華「開けてみて?」
芙蓉「…? うん」
★袋の中には取られた小物達と、芙蓉の髪飾りが入っている、袋のアップ。
芙蓉の声「う、そ… これって」
★色華が袋から髪飾りを取り出す。
★取り出した髪飾りを色華が芙蓉につける。
色華「取り返す約束、したもんね」
【29ページ】
★目に涙を浮かべながら、思い切り色華に抱きつく芙蓉。
芙蓉「〜っ! 色華っ!」
★優しく微笑んで、抱きしめ返す色華。
色華「これで少しは恩返し、できたかな」
★色華の言葉にコクコクと頷く芙蓉。
★芙蓉は満面の笑みで、髪飾りに手を添える。
芙蓉「色華、本当にありがとうっ!」
【30ページ】
○街中・路地・(夜)
★色華は上機嫌で、夜の路地を歩く。
★路地の突き当たりには、腰の抜けた男。
男2「も、もう追ってきてないよな!?」
★男の頭上から影がさす。
色華「みーつけた」
★地面に血が飛ぶ。側には男2の着物が見える。
【31ページ】
○街中・大通り・(朝)
★色華が笑顔で店に向かって歩いていく。明るい様子。
★歩行している色華の耳に、誰かの雑談が聞こえてくる。
モブ3の声「…ほんとなんだって!」
★モブ達が噂話に花を咲かせている。
モブ3「今月でもう数え切れないくらい、盗人が捕まってるって!」
モブ4「まぁ良いことじゃねえか?」
★色華はさらに機嫌良く目を細めて、歩き出す。
モブ3の声「それが…」
モブ3の声「全員片目がないんだとよ!」
【32ページ】
○小物屋「細麗」・店内・(朝)
★色華が扉を開けて店内へと入ってくる。
色華「おはよう、芙蓉」
★芙蓉が色華の方へ振り向く。
芙蓉「おはよ…ってあれ?」
芙蓉「その腕…」
★色華の腕には無数のカラフルな瞳が動いている。腕のアップ。
芙蓉の声「色華にも目が出たんだね!」
芙蓉の声「万華鏡みたいですっごく綺麗!」
★色華は綺麗でおぞましい笑顔を浮かべる。
色華「ふふっ、綺麗でしょ?」
小説ではございませんが、楽しんで頂けていたら幸いです。