Y1-3
俺はY1に引きずられながらある部屋に案内された。
「ほら、着いたよ。」
「もっとマシな運び方があっただろ!」
「まあまあ落ち着いて。殺し屋に大切なのは冷静さでしょ。」
それを言われ俺は一呼吸おいて冷静になる。
「次会ったとき覚えとけよ。」
「はは、やっぱりSは凄いね。一瞬身体が硬直しちゃったよ。」
「俺の殺気を食らってその程度で済んでる時点で一般人から見ればお前も化け物だよ。」
「ははは、そうかもね。と、じゃあ入ろうか。」
そう言ってY1は目の前の扉を開いた。
・・・
部屋の中には3人の子供がいた。女子2人の男子1人。俺たちが入ったことに気が付くと全員姿勢を正し、礼をする。
「「「おはようございます!」」」
「おい、どこまで仕込んでるんだよ。」
「はは、SIKの下っ端程度だよ。」
SIKはかなりデカい組織だが個人個人の強さも他と比べると高い。そのため下っ端でもそこら辺の一般人5人程度は余裕で殺せる程度の力がある。
『それをこの歳で出来るのか…』
この組織に16歳の殺し屋がいないわけではない。だが大半はSIKに入る前にSIK.jrという場所で鍛えられる。そしてSIK.jrを卒業する時にはほとんどが20を超えている。それを16歳でというのは中々に凄い。
「ほら、みんなあいさつしな。」
Y1がそう言うと全員が俺の前に並ぶ。
「Y1-1です。よろしくお願いします!」
「Y1-2です。よろしくお願いします。」
「Y1-3。よろしく…」
「Sだ。よろしく。」
「君たちの教官になる人だよ。SIKでも最強と名高い人だ。なんでも聞いたらいい。」
「そういうことだ。だが俺は教えるのが苦手だ。自分で適当に鍛えて疑問ができたら聞きに来い。」
「「「はい!」」」
そんな感じで俺の教官生活が始まった。
・・・
初日目
俺はただただ3人の様子を見ている。見ていると弱点がたくさん見えてくる。Y1-1は大振り。Y1-2は連撃が苦手。Y1-3は一番優秀だがたまに次の手を目で報告してしまっている。そして全員共通だが経験不足。俺がそんな感じで3人を見ているとY1-3が近づいてきた。
「あの…」
「なんだ。」
「私の弱点は目ですよね。」
『理解していたのか…』
「そうだな。」
「どうやったら解決しますか?」
「ふむ。じゃあ俺がお前に一撃だけ放つ。防いでみろ。」
「!?…わかりました。」
俺がそう言うとY1-3は距離を取って防御の体勢に入る。他の2人もこちらを見ている。
『向こうも俺を見定めようとしているのか…だが、』
「俺はお前ら程度じゃ見定めきれねぇよ。」
俺はいつも通り…いや、いつもより手を抜きながらナイフで斬りかかる。そしてY1-3はそれを普通に食らった。
「え…何が起きたの?」
Y1-1とY1-2は何が起きたのかわかっていない様子だった。だがY1-3だけはわかったようだった。
「ありがとうございました。」
そしてY1-3は再び訓練を始める。そこにY1-1とY1-2が近づいていく。
・・・
私が訓練を再開すると2人が近づいてきた。
「ねぇ、Y1-3。さっきのは何が起きたの?」
とY1-1が質問してきた。
「教官は予備動作を消して攻撃したんだよ。」
「予備動作を消した?」
「うん。普通何かをする場合、人間は予備動作を取ってしまう。そして予備動作を見れば次の相手の動きが分かる。」
「それは知ってる。Y1さんに教えてもらったから。でも予備動作を消すってのはどういうこと?」
「普通ナイフで攻撃する場合。少し肩が上がり、手首が動きナイフの角度を調整、攻撃時に腰や腕を使って斬りかかる。それが普通。そして最初の肩が上がる前に起こる事象が予備動作。例えばナイフを強く握るとか手首の角度が少し変わるとか。でも教官はそれがなかった。」
「それって普通は無理なんじゃねぇか?」
「そう。普通なら無理。でもそれを可能にする方法がある。それは、攻撃をすると決める前に予備動作を完了しておくこと。」
私がそう言うと二人は首をかしげていた。
「意味がわからない。そんなことできるわけないだろ?」
「普通ならね。でも出来ないわけではない。でもするためには自分の予備動作を理解してそれを自分でする必要がある。」
「そんなの…いや、できるけど…でもそんなの見本になんか…」
「教官が見本にしてもらいたかったのはそこじゃない。」
「「???」」
「教官が見本にしてほしかったのは…」
・・・
俺が見本として見せたのは予備動作の省略ではない。本当に見本にしてほしかったのは、相手の目線の誘導。Y1-3の弱点である目で次の攻撃がバレてしまうというもの。それの対処法はいくつかある。1つはその癖を直すこと。これはかなり時間がかかる。元からある癖をなくすことほど難しいものはない。次に相手にバレても殺せるほどの必殺性。これも習得は今のあいつらでは難しい。そして次、相手に目を見させない。目の動きさえ見られなければそれは弱点になりえない。だがこれは強者には通用しない。強者は相手の一部を見ることはほとんどない。相手の全体をみるのだ。そのため目線の誘導は出来ない。だがそこら辺の下っ端程度ならこの手で解決できる。
さっきの模擬戦では俺はY1-3と同様に目で次の攻撃を教えた。だがその瞬間に足を数ミリ動かす。その瞬間だけY1-3の視線は俺の脚に向いた。そしてその後に攻撃する。予備動作がなかったのもデカいだろうが、目の動きさえ見ていればもしかしたら避けられたかもしれない攻撃だった。
『さて、これであいつはどう改善するのか…』
俺はその時を楽しみに待っていた。




