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35日後に退職する私  作者: 東雲いろは
3/8

残り33日


「今なら先日の発言(退職の意向)を取り消すことも出来るぞ」


 二日ぶりに出社した私は自分のデスクでなく朝イチで会議室に通された。

 隣室への僅かな移動なのに皆の腫れ物を扱うような視線がどこか煩わしい。

 色々言ってやりたい事もある。

 けど……自分は退職する身。

 迷惑を掛ける側の人間だし、ここは寡黙を保つよう心掛けなくては。

 しかし大人しく会議室で待つ私の下へ訪れた部長は開口一番そう告げた。

 ああ、この人は変わらないな。

 抑えていた激情が沸々と煮え滾るのを感じる。


「いいえ。先日お伝えした通りです。

 来月末、3月31日を以って退職させて頂きます。

 それまでは貯まっている有給を消化したいと思います」

「何を言っている。

 そんな事が罷り通る訳ないだろう」

「有給休暇は労働者の権利だと思いますが?」

「給料泥棒が権利ばかり主張するのは勝手だが、業務を優先しろ。

 まずは義務を果たせ」

「働くのが義務である、と?」

「そうだ。最後まで会社に尽くすのが筋だろう」

「私はそう思いません」

「ふざけるなよ、お前」

「ならば労基と相談してみますか?

 足りないなら顧問弁護士へも連絡してみますが」

「いや、それは……」


 急に意気消沈し言い淀む部長。

 突かれると痛い箇所が多過ぎるからだろう。

 すると次の瞬間、情けない顔で縋るような目線で怒鳴り掛けてくる。


「お、お前が抜けた穴はどうなる!?」

「手順書作成と関連各所への引継ぎは行います」

「今からでは月末業務が間に合わないだろうが!」

「勿論責任を以って対処します。

 それに月次処理は既に対応済みですよ。報告した筈ですが?」

「ぐぅ……しかし、だな」

「何にせよ総務も認めてくれましたし問題ないかと。

 ではこちらが退職届です。

 本当に色々とお世話になりました」


 一礼と共に懐から差し出した退職届を受け取らない部長。

 理解し難いものを見る眼でそれを見ている。

 自分の理屈が通じないのが意味不明なのだろう。

 私は会議室のテーブルに退職届を置くと、恭しく一礼し退室した。

 





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