残り35日
「分かりました。
ならば――退職をさせて頂きます」
度重なる理不尽な叱責。
失態の言及が遂に人格攻撃に及んだ際、何かの糸が切れた。
貴方の拘りは誰も幸せにしませんよ。
上司に啖呵を切って辞めた先輩の顔が脳裏を過ぎる。
私が辞めれば職場の皆に迷惑を掛けるかもしれない。
けど――もう限界だ。
このままでは遠からず私の心が死ぬ。
死んでしまう。
終わりの無いサービス残業と成果を残しても罵られる日々。
以前から考えていたけど……退職をしよう。
覚悟を決めて告げた私の言葉に部長は驚いているようだった。
先程まで浮かべていた厭らしい笑みを消し、眼を見開いている。
だが何かを思いついたように引き攣った顔で話し掛けてくる。
「何を言ってるんだ、お前は。
ここを辞めても行く宛てなんかないだろう?
無能なお前が、すんなり再就職できると思うなよ」
「そうかもしれません。
世間は就職難という事も理解はしております。
でも――ここにいて心も体も壊すよりは無職の方がまだマシですから」
「なっ!」
「今日は有給を使い早退させて頂きます。
明日には退職届を持って参りますので……
それでは短い間ですがお世話になりました」
慇懃無礼な一礼を深々とし、踵を返す。
同僚たちの驚きを背に、私はどこか晴れ晴れした顔で会社を後にするのだった。