事情
「これは?」見るからに電車のキーホルダーだが一応聞いてみる。「?キーホルダーだよ?いいでしょ」
「ああ、ありがとう。」どんな反応をすればいいのかわからない。別に俺は電車が好きなわけではないからだ。「歩夢は電車好きなの?」「そうだね。電車に乗れば全然知らないところに連れて行ってくれるから好きだよ。ここから出たら車掌にでもないりたいって思っているんだよね。」ここから出ることができるのか。この病室はなんだか物静かな感じとなんだか不思議な感じの二つが印象に残る。そんな部屋の外に出られるのかと心のどこかで思い聞いてみる。「歩夢はここを出たいの?」「出られるなら出たいな。言い忘れていたけど、僕のこの願いをかなえる力は君で最後なんだよね。」訳が分からない。寂しそうな声でそんなことを言われても俺が何をできるわけでもないのに。
俺が困惑していることに気が付いた歩夢は事の説明をしてくれた。
「まず僕は、人の願いをかなえることができる。でもこれは生まれつき持った能力じゃなくて神様がくれたものなんだ。だからね、普通の人が使うと代償が必要なんだ。じゃあ何でこんなことをしているかって?それはね。この力をもらえる前は病気だったんだよ。医者にも治るかわからないって言われててさ。そんなある日夢の中で僕の病気を治す代わりに人の願いを叶えろってさ。だから僕は人の願いを叶えることをしているんだよ。それも、もう無理そうなんだよね。代償がさ、僕の何かを失いうことだから。こう見えていろんなことを忘れているんだよね。親の名前とか、家の場所とか。とにかくいろんなことが分かんないんだよね。それであと僕に残ったものと言えば自分の名前と好きだった電車くらい。だから僕のこと知ってもらいたくて電車のキーホルダーをあげたんだ。」言葉が詰まった。彼がこんな残酷な目になっているなんて。