9.
「おはよう、テオバルト! ってどうしたんだい?顔怖いよ?奥方と何かあった? ちゃんと会話した?」
「ルーカス、すまないがそのマリエッタについて聞きたい事があるんだ。どこかで時間取れるか?」
「今からいいよ、深刻そうだしね。まぁ予想もついてるよ」
そう言ってルーカスは、執務室に誰も通さないよう命じ、三人分のお茶を準備させ扉を閉じた。
「で? 話は伯爵家の事かな? それとも奥方の事?」
「両方だルーカス、やはり全て知った上で持ちかけたんだな? 何が目的だ? 俺にあの腐った伯爵家を潰させる為か? 何故俺に何も言わなかったのだ? お前はどこまで知っているんだ!」
「そんなにいっぺんに質問しないでくれよ、黙っていた事はすまない謝るよ。彼女の事も実家の事も全て報告されている。また君が僕を信頼してこの話を即決する事も想定してた。何が目的かと聞かれると、そうだね......全ていっぺんに解決出来ると思ったんだ、君達ならと期待してる」
「君達? 俺とマリエッタの事か? あぁ、それなら心配ない和解したんだ。俺は彼女を守ると、救い出すと決めたんだ。伯爵家の事もそのままにはしておかない! お前の期待した通りだな」
「うーん、僕は君の事も心配しているんだよ? 記憶まだ戻っていないんだろう? "忘れたものはもういい"なんて君は言っているけど、僕は思い出して欲しいんだ。だってあの頃の君は!」
「俺の事はいいんだ、ルーカス。確認だが伯爵家の事は俺に任せてくれるんだな? 何か引き出しておく事はあるか? なければお前の情報も俺にくれ、あの伯爵家の親戚縁者全てを粛清するつもりだ。」
「いいって事はないだろ? 君の事だって、君にとって大切な想いのはずなんだ。忘れたままにしてほしくないんだ」
それまで口を開かず話を聞いていたリチャードが二人の会話に混ざる。ここにいる三人は立場は違えど幼い頃から気心の知れた仲なので、人の目がない所では昔のように気兼ねのない関係になるのだった。
「テオ? お前が過去に囚われたくない気持ちも分かるが、ルーカス様にも何かお考えがある様だ。一度頂いた情報を持ち帰って伯爵家を洗い直そう。見落としている事があるかもしれない、マリエッタ様にもお辛いだろうが話をしていただく必要があるかもしれない」
「そうだな、マリエッタにとってはあんな家でも一応は生家だ。彼女にも話を聞く権利があるか......。ルーカスお前の真意はよく分からんが、何か思う所があるのならいつでも話してくれ。俺の方も報告する、出来れば王女が来る前にある程度の事は済ませたいからこのまま残るが、今日は定時に帰ろうと思うから......」
「テオ? せっかくだけど今から屋敷に帰っていいよ! 新婚なのに一週間も城に居続けたんだ! 暫く身体も休めて奥方との交流を深めるといい。和解とかでは無くしっかり仲良くするんだよ?リチャード二人の事も伯爵家の事も頼むね」
王太子であるルーカスにそう言われては俺達は従うしか無いので、王家が集めた情報を手に屋敷へと戻る事にした。
肩透かしを食わされた感を強く感じ、納得をしたわけではなかったが、俺はいつの間にか帰りに何か土産を買って帰ろうとマリエッタの事を考えていた。
自分の変化に少し戸惑いつつ、その変化が嫌なものでないという事に自分でも驚いていたのだった......。