7.
俺は握っていたマリエッタの手をそっと離し、そして彼女の目を見て話す。
「マリエッタ、君はこちらに嫁いだ後の事や、一年後の事などの詳しい話......、そもそもこの契約婚を父親にどの様に聞いていたのか俺に教えてくれないか?」
「テオバルト様申し訳ありません。わたくしは父から何も聞かされておらず、あの日は義妹のドレスを着せられ、父に『いつもの様に何も考えるな』と、そう言われ馬車に乗せられたのです。ですので......」
「なんだとっ!」俺はカッと血が頭にのぼったが、リチャードが横から割って入ってきて俺を止めた。
「旦那様、奥様が驚いてしまいますよ。奥様は何も存じ上げない様ですし、ひとまず旦那様も朝食を召し上がってはいかがですか? 奥様にも休息が必要ですから」
俺はマリエッタに『後でまた来るから』とゆっくり休む様に伝え、リチャードと執務室に向かった。
執務室に着くとサンドイッチが用意されていたが、手を付ける気にはならず一刻も早く調査が必要だと、気ばかりが焦っていた。そんな俺の様子を見たリチャードは
「落ち着くんだテオ、良かったじゃないか! マリエッタ様笑っていたな? よほど安心したんだろう」
「落ち着いていられるか! 何故伯爵は彼女に何も話していないんだっ! そもそもこれは王太子が絡んでる話なんだぞ? 伯爵もそれがわかった上で契約を結んだんだ! それなのにどうして当の本人が何も知らない! 何も考えるなだと? 伯爵の方こそ何を考えているんだ! 金の事はどうでもいいが、持参金なしで更に契約料含めたかなりの額の支度金を渡したというのに、そんな、これではまるで……まさか伯爵は自分の娘を?」
「そのまさかだよ、お前が城から帰ってこない間に伯爵家の内情を全て調べた。その反応から見ると、虐待以外の事も含めて、お前も全く知らなかったんだな?確かに巧妙で狡猾に隠されていた。この事はお前がマリエッタ様の真実を自分の目で見てからだと思ったんだ。それで、どうする?この分厚い報告書」
リチャードから奪い取ったそれを、俺はひとまず冷静に目を通した。いや、血管の何本かはキレていたと思う。怒りで顔の強張り戻らない。
仕方なくナタリー達にマリエッタへ戻れなくなったと謝罪の花を届けてもらい、俺はこれからどうすべきかを考えた。
そうして伯爵家のあまりにも酷い内情を知り憤慨しながら、ふと思った。
ルーカスの事だ、王太子であるあいつがこの事を知らずに俺の結婚相手とするはずがない、詳しく話を聞かねばと急ぎ城に向かった。