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4.

今回虐待の表現や、怪我や傷の事が出てきます。


家令ーサムエル、執事ースチュワート、侍女長ーマーサ

侍従ーリチャードソン(リチャード)、専属メイドーナタリー

 報告の内容は次のような事ばかりであった。 


 ・契約を交わしたあの日馬車の中で静かに泣いていた事


 ・屋敷に着いて倒れた事


 ・着替えの際身体中に傷跡があり、

  とても痩せていて肌も髪も手入れがされていなかった事


 ・食事はほんの僅かで、残りを次の食事にしようとする事


 ・手に何か物を持って近づくと震えて怯えてしまう事


 ・夜中にうなされて、何かに泣いて謝っている事


 そして、ほんの些細な事で、頻繁に涙を流している事。


「   …虐待…  なのか?……」


「えぇ、奥様はこちらへ着いてすぐ急に倒れられて意識を無くされました。楽な服装にと、私がドレスを脱がせた時に気付いたのですが......とても直視出来ませんでした。中にはとても古い傷もあり、新しいものは打撲痕があり、腫れも引いておらず熱をもっている状態でした…...」


「医者は……」


「もちろん呼びました、マーサからその話を聞き、すぐさま専属医と薬師と治癒師を呼び、慢性的な栄養失調、骨折の為の変形、火傷の痕、脱毛の痕、片方の視力は殆ど失われていたそうです。それから…...」


「もういいっ!よせっ!」


「いいやテオ、聞くんだ!お前は知るべきなんだ。たとえ神の前で誓っておらずとも、契約上のパートナーだけだとしても、あの優しくて弱い女性ひとを本当の意味で守れるのはお前しかいないんだよ」


「…………………………」


 家令から報告される怪我の凄惨さに思わず言葉を遮ってしまったが、リチャードから正論で諭されて言い返す事が出来なかった。

 

 そうして家令は先を続けた。


「旦那様、リチャードの言う通りです。医者達は奥様の状態に言葉を失っていましたが、幸いな事に体調や体格以外の怪我や傷、視力などはすぐに治してもらう事が出来ました。しかし深刻なのは心のキズなのだと治癒師が申しておりました」


「心の傷?」話の途中で思わず聞き返してしまった俺に、家令のサムエルは頷いて報告を続ける。


「その治癒師は奥様の悪い噂を知っており、そして納得したそうです。感情を消し、心を無にする事で痛みに対抗していたのだろうと、涙が出るのはこれまでの反動であり、これ以上我慢をさせるべきではないと。奥様は今、嬉しい時も悲しい時も食事や挨拶を交わす事でさえ、僅かな感情の動きで涙を流されているのです。本当においたわしい......どんな幼少期だったのでしょう。『ノックをして、目を合わせてくれてありがとう』と涙を流す奥様を見て、この爺は胸が張り裂けそうになりました」


「そんな事が......」そう俺が言葉を失っていると執事のスチュワートから声が掛かる。


「旦那様、私からも宜しいでしょうか?奥様は最初、執事の私も含め下級のメイドにまで敬称をつけそれはそれは腰を低く接しておりました。それに気付いたナタリーとリチャードが親しみを込めて名前で呼び合う事を提案し、奥様との壁を取り払おうとしたのです」


 そうか......そういう経緯いきさつだったのかと俺が納得していると、「しかし......」とスチュワートの報告にもまだ先があるようだ。


「少しでも距離を縮め安心して生活していただこうとしていた矢先、私が納品された旦那様の狩猟道具と乗馬用の鞭をお部屋に運んでいた際、奥様は表情を無くし背を向け静かにドレスの裾を上げたのです。私は訳が分からず思わず慌ててしまいました。そしてその奥様のふくらはぎには鞭の跡が無残にも無数に残っていたのです」


「なっ!」


「鞭を目にして反射的にその様な行動に出るなど......。私は情けない事にその時改めて思い至ったのです、ご実家での奥様の境遇に。使用人達や執事の名のついた人間にまで酷く、深く傷つけられていたのかもしれなと……。旦那様、どうか、どうか奥様を!差し出がましい事だとわかっておりますが、私達全員の総意としてどうか奥様に手を差し伸べてあげて下さいませ!」


「皆顔を上げてくれ、すまなかった俺が浅慮だった。噂と伯爵の言い分だけを鵜呑みにして、所詮一年だけであり、ルーカスが選んだ相手だからと向き合おうともしなかった。自分の事であるのに、お前達に丸投げして知らなかったでは済まされないないな......。俺の考えや態度は到底許されるものではない」


「テオ?マリエッタ様はな、とても優しくてとても繊細なんだ。お前が今日屋敷にいると伝えたら、城で働き詰めで疲れているだろうお前の為に、花を部屋と執務室に飾ってもいいかと心配そうに聞いて来られたんだ。お前の為に自分でやりたいと、まぁ結局俺が引き継いだがな」


「何故?俺は初対面で非情に言葉を投げつけた、屋敷にも帰らず昨夜も目も合わせず無関心を通した」


「その初対面の時に"貴女あなた"と呼んでもらったのが嬉しかったんだとさ、屋敷に来たらベッドがあり、食事が3食出てきて挨拶や返事をしてくれる侍女を自分の為に用意してくれていたと、とても驚いていらしたぞ?」


「そんな…...当たり前の事だ…...ろ?」


「テオ、お前はこうして事実を知った。この後どうするかお前なら正しく行動出来るだろう?マリエッタ様は俺達の当たり前が当たり前じゃないんだ。心のキズも癒えるまで時間がかかるかもしれないし、噂の事や実家の伯爵家の事もある。でもな…...お前、自分の奥さんいつまでも泣かせてていいのか?」


「俺が弱気になる訳にはいかないな、覚悟を決めよう!伯爵とはキッチリをつける!だが、それよりも俺は彼女・・の信頼を得られる様努力するぞっ!悲しませる様なことは言わないし、優しくする!お前達も引き続き協力してくれ!」


「「「 旦那様っ!!!!! 」」」


「噂を信じたり、偏見にとらわれず、彼女に真心で接し優しく寄り添ってくれた事を、改めて礼を言う。ナタリーにも他の使用人達にも後で直接話をしよう!それからリチャード......ありがとう。俺の腐った頭と歪んだ性格をすんでのところで正常に戻す事が出来た、本当にすまなかった」


「テオ?根に持っているんだな?いいのか?俺達使用人はお前よりマリエッタ様と多少は親しくなっているんだぞ?ここで俺に意趣返しをするよりもやるべき事があるのではないですか?テオバルト様?」


「そうだっ!今すぐ謝って、泣くなと言ってくる!」


「オホン、旦那様?………まずは先触れを出しましょう、一緒にお茶を召し上がるのはいかがでしょう?謝るのは正解ですが、例え奥様が涙を流されても、泣くな!ではなくお話を聞いて差し上げるのが宜しいかと。あとハンカチの用意を、リチャード?旦那様が暴走しない様あなたも付いて行きなさい。私は旦那様の代わりに執務に励みましょう、マーサとスチュワートは使用人達への今回の通達と本日の晩餐の手配を盛大に、頼みますよ。旦那様も宜しいですね?」


 テオバルトが幼い頃からこの屋敷に仕えている家令のサムエルが手際よく手配していく、その指示に当主であるテオバルトをはじめ侍従のリチャード、執事のスチュワート、侍女長ののマーサが元気よく返事をしマリエッタの為に、各自速やかに動き出すのであった。









ここまでが短編と同じです。

次回から連載版として、短編にはなかったエピソードを盛り込み、本筋に繋げていけたらと思っております。

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