13.
店を出たら昼時になっていたので昼食をたべようと、スチュアートに渡された地図を開いて確認していると、出店が気になるのかマリエッタがチラチラと視線を送っているので「あれが食べたいのか?」と聞くと
「スチュワートに、お金を貰ったのですがあれを買ってもいいですか?」
モジモジとそう言うマリエッタ、涙を流す姿も綺麗だがこういう顔もとても可愛いと思った。
「勿論」と言って、他にも気になるのがある時は言うように伝えるが彼女の意識は視線の先の出店に釘付けだった。
「スティックドーナッツを10本ください!」
嬉しそうに店主に注文しているがその数に驚いた。
「マリエッタ、さすがに多過ぎやしないか?」
「護衛の方達の2本に、マーサとサムエルとスチュアートのお土産と、私達の分です。」
(護衛やスチュアート達の分か、指折り数えてる姿も可愛いな……ん?)
「フフフ、マリエッタ、一本余るぞ?」
「え? テオバルト様には2本ですよ?沢山お食べになるでしょう? だから間違ってないのです!」
驚く俺をよそに会計を終わらせて、一本ずつ配っている。「特別扱いされてよかったですね!」なんてリチャードがからかってくるが、確かになにやらこそばゆい。
出店の横に並べられている椅子に座ってみんなでマリエッタに礼を言うと、とても嬉しそうにしている。ナタリーに果実水を頼んでそれと一緒に食べていると案の定マリエッタのペースが落ちていたので無理をさせずに残りを俺が食べた。
(胸焼けを起こしたら大変だからな……俺も大概過保護になってきた様だ)
まだ元気だと言うマリエッタを宝石店に連れて行くと、この店の店主を名乗る男が飛び出して来た。
「これはこれは! グランジュ公爵様!わざわざお越しいただきありがとうございます。これより当店は貸切とさせていただきますので、どうぞごゆっくりとご覧ください。」
「いや、大袈裟にしなくていい。こちらは若い女性に人気と聞いてきた。妻が気に入るのを贈りたいんだ、何か良いものを見せてくれ」
流行り店というだけあって、広過ぎない店内に数組のカップルや女性客がチラチラとこちらを見ているが、煩わしいとまではならないのでそのままマリエッタをエスコートする。
ソワソワしながらも瞳はキラキラとさせているマリエッタが喜ぶ顔を想像し浮かれていた俺は、この時の店主の申し出を断った事を後悔するのだった…...。
こちらへどうぞと、高級感漂うスペースへ案内されソファーへと座る。飲み物が用意され、店主が商品をテーブルへと並べる。これならマリエッタもゆっくりと選べるだろうとこの待遇に満足する。
おそらく個室でもなく仕切りも無いのはわざとなのだろう、店内から見える位置をあえて差別化する事で、客の自尊心なり対抗心なりで購買意欲を増す様にと、そんな意図がありそうだ。
マリエッタに気に入ったのはあるかと聞くと、顔が曇る。それを見た店主が青い顔をして他の物を取りに行った。申し訳なさそうに自分に装飾品は分からないと言うマリエッタに、俺は彼女の瞳と同じ色をしたエメラルドのネックレスとイヤリングを勧めて試着をしてみたがとても似合う!
「お待たせいたしました、奥様こちらは如何でしょうか? 閣下の瞳と同じお色のサファイアでございます。奥様のお髪のプラチナブランドはなんでもお似合いですが、この…...」
「これ! わたくしっ!これがいいです! テオバルト様、貴方のお色を身に付けてもいいですか?」
「んぐっ……んっンン! ああ、勿論だ。店主、このセットを包んで…...いや着けていくからその様に準備をしてくれ」
店主とマリエッタはニコニコ、リチャードとナタリーはニヤニヤしている。ふぅ、なかなかに衝撃が強く心臓に悪いが何故だろう嫌じゃないし、むしろ心が満たされる感覚だ。
俺の色をしたアクセサリーを身に付け嬉しそうに何度も鏡を覗き込むマリエッタが可愛過ぎて、入り口の騒がしさに気付かずにいたのだが、俺達が店を出た時にそれとかち合ってしまった......。




