仕組まれた偶然
お昼ご飯を食べ終え午後の授業がスタートする。
午後の授業は、ご飯を食べた後だから無性に眠くなってくる。
「ふあぁ〜」
思わず大きなあくびをしてしまう。
とりあえず、羊を数えよう。
頭を使うと眠くなくなる気がする。
だから、羊を数えると逆に眠くならないと俺は思う。
俺は、羊を数え始める。
「…くん」
ん?
何か聞こえる?
「湊音くんってば」
耳元で羊以外の名前が聞こえる。
ん?
羊以外?
俺は目を開ける。
「あ、起きた」
「よく寝てたね。もう授業終わっちゃったよ」
望月さんが、耳元に小声で話しかけてくる。
不意に、耳に息が当たる。
俺は体を起こす。
「起こしてくれてありがと」
「でも、耳元は弱いから勘弁してくれ…」
さっきから、望月さんの息がくすぐったい。
「あ、ごめんね。あんまり大きい声で起こしたら可哀想かなって思って」
「ぐっすり寝ていたから」
そういえばこの子、天然だった。
悪気はなかったのだろう。
耳が赤いのがバレていないといいけど。
世の男は、そういうことをされると簡単に勘違いします。
ただでさえ可愛いのだから気をつけて欲しいと思う。
「いや、大丈夫」
「起こしてくれてありがとう。望月さん」
どうやら、俺は50分ほど寝ていていたらしい。
そういえば、羊を最後に数えたのは10匹くらいのところだった気がする。
逆に眠くならない説は立証されなかった。
「矢野ー。ちょっと、手伝ってくれ」
担任の先生が俺のことを呼んでいる。
頼み事があるらしい。
「悪いが、この資料を職員室に運ぶのを手伝ってくれ」
隣には書類の山がある。
「わかりました」
先生の頼みを断ることはできないので、仕方なく手伝うことにした。
先生は、隣にある書類の山を大雑把に分けて、俺に渡してくる。
重たい。
「先生、俺の分が少し多い気がします」
なんか俺の分多くない?
「つべこべ言わずいくぞ」
うわ、この人結構辛辣だな。
先生と職員室に向かうため並んで歩く。
歩いていると先生が口を開く。
「矢野、お前な。初日から爆睡とはいい度胸だな」
俺に頼み事をしたのはお叱りをするためらしい。
今回ばかりは、俺が全面的に悪いのでとりあえず謝っておこう。
「それに関してはすみませんでした。お昼の味噌カツが美味しすぎました」
「まあ、わかっているなら良しとしよう」
もっと怒鳴られるかと思ったけど、案外穏便に終わった。
「えっと、ちなみに今日何しました?」
寝ていたせいで授業の内容が何も入っていないので、恐る恐る聞いてみる。
「さっきは委員会決めをしたぞ。」
委員会決めか。
正直どんな委員会でも、良いから別に支障はない。
まあ、ある程度、面倒くさくないものが良いとは思う。
面倒くさいことは嫌いだ。
「矢野は爆睡していたから図書委員会になったけど文句言うなよ」
「望月と一緒だな」
「文句なんて言いませんよ。俺が悪いですし」
望月さんと委員会が一緒とはラッキーだ。
仲の良い人と一緒とは素直に嬉しい。
それに、寝ていた俺が悪い訳だから、文句が言えないのは当たり前だ。
「ちなみに、この学校の図書委員会、放課後に活動があるから。頑張れよ」
そう言って、書類を俺の手から取り職員室に消えていった。
やっぱりさっきのは、撤回だ。
この人が悪い、俺は悪くない。
学校に少しでもいる時間を減らしたい俺からしたら、放課後に活動があるのは一番避けたかった。
とはいうものの、どう考えても俺が悪いのは一目瞭然だ。
寝なければ良かった、そう後悔した午後の授業終わりだった。
図書委員会の活動は今日からあるみたいだ。
とりあえず、望月さんを教室に迎えに行こう。
「ガラガラ」
教室のドアを開けると望月さんが席に座っていた。
「望月さん、図書室に一緒に行かないか?」
俺は、ドアからそう問いかける。
「待っていました。いきましょうか」
俺のことを待っていてくれていたらしい。
どこまでも優しい女の子だ。
教室に誰も残っていないことを確認して、ドアを施錠する。
ついでと言って、戸締りも先生に押し付けられていた。
本当適当だな、あの先生。
あんまり人のことは言えないけど。
そんなことを考えつつ、望月さんと2人で図書室に向かう。
「それにしても、委員会が一緒になるなんて。こんな偶然もあるんだな」
クラスは34人で、図書委員会は唯一の2人ペアで少人数のため、望月さんと一緒になることは珍しい。
「そ、そうですね」
「私は、図書委員会を元々志望していたのですが、たまたま、そうたまたま余っていたのですごい偶然ですね」
なんか、望月さんすごい喋るな。
気のせいかもしれないが、少し早口な気もした。
何か隠していそうな感じだったが、特にやましいことなどないと思うので特に指摘はしなかった。
「だなー。望月さんと一緒でよかった」
昨日の朝、望月さんの名前を突然叫んだ頭のおかしいやつという認識がクラスにはあるため、事情を知っている望月さんと一緒で良かった。
「そ、それってどういう…」
「ん、何か言った?」
望月さんが、何か言った気がするが小声で聞こえなかった。
「あ、いえ、私も嬉しいです。」
廊下の窓から差し込む夕陽の光は、望月さんの顔を赤く照らしていた。
少し俯いている望月さんと放課後の廊下を2人で歩く。
夕日に照らされた望月さんはとても可憐な感じで美しくみえた。
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