人の優しさ
あの後は、ずっと望月さんに背中をさすってもらっていた。
緊急事態とはいえ、初対面の女の子にあんなにも甘えてしまったのは、男として不甲斐ない。
しかし、絶望していた俺はその優しさに救われた。
まだ、今の望月さんのことを受け入れることは難しいかもしれない。
でも、少しずつ知っていきたいと思う。
望月さんの友達が教室に入って来て曖昧な形で終わってしまったが、いつか今日のお礼をしたいと思う。
その友達がドアを勢いよく開けるので、バレそうになったのには流石に焦った。
泣き目で女の子に背中をさすられている俺。
知らない男を撫でている望月さん。
絵面で言えば、その…あれだ、カップルに見えてしまうだろう。
入学2日目にしてこんなところを目撃されていたら、事情を知らない生徒は、何事かと思うだろう。
努力むなしく、ドアの開く音に驚いて離れた俺たちの様子は、目撃されていたようだ。
「でー、何してたのかなー?」
そして今に至る訳だ。
望月さんは友達に色々言及されている最中って訳だ。
それはそうだ、人が来た瞬間にバタバタしていたら怪しむに決まっている。
しかも、二人きりの教室なんて、怪しさ満載だ。
それこそ、ドラマやアニメなどでよく見るラブシチュエーションだし。
望月さんが「うう…助けて…」と言わんばかりにこちらにSOSを出している。
そんな困った顔で見られても困る。
ただでさえ怪しまれているのに、俺も弁明に参加していたらおかしいだろ。
そんな矢先、友達は視線に気付いたのか俺に矛先が向く。
「君。私が教室に入って来た時、なんかバタバタしてなかった?」
「小雪ちゃんと、何かしてたのかな〜?」
「別に何も。隣同士、自己紹介をしていただけだよ」
平然を装い、それっぽい理由で誤魔化す。
「自己紹介?ホントかなー」
「自己紹介なら私が教室に入った時、あんなに慌ててないと思うんだよね。」
正論である。
この子、頭の回転が早い。
的確に俺の逃げ道を潰してくる。
元気な感じで話しかけてくるから、スポーツマンタイプかと思ったが…
人は、見かけによらないとはこのことである。
「それに、昨日、小雪〜って言っていた子だよねー。」
「何かやましいことでもあるのかな?」
おい、ニヤニヤしながら言うな。
「それはその、事情があってだな…」
やばい。
良い言い訳が思いつかない。
小雪のことは、まだ誰にも言いたくはない。
自分でも、心の整理ができていない。
そもそも、今日、昨日と続いて望月さん関連では、俺は完全に怪しいやつだ。
そこを的確につかれてしまうと、勝ち目がないのは当たり前だ。
望月さん助けて…
そう思い望月さんにSOSを贈ると、顔をブンブンと横に振っている。
ここで黙ったらやましいことがあると認めることになってしまう。
それは、望月さんのためにも避けたい。
でも、弁明が思いつかん。
どう動いても積み状態の中、教室のドアが開く。
「詩乃、それくらいで勘弁してやれよ」
教室に入って来たのは、昨日助けてもらった叶翔だった。
女の子の名前は、詩乃というらしい。
「えー、良いところだったのに」
「二人とも困っているだろ。からかうのは良いけど、程々にしろと言ってるだろ。」
「もう、わかったよー。」
「私、テンション上がるといつもこうなるの、二人ともごめんね。」
詩乃さんは謝罪するが、からかってきたのは彼女なりの気遣いだったのだと思う。
もし、詩乃さん以外の人に目撃されていたら、朝のことは、学校内で広まっていた。
そうなれば、ありもしない事をでっちあげられ注目の的だ。
高校生活は終わりだ。
一度広まった情報は、簡単には消せない。
人は、当人の意見なんて聞きやしない。
社会は、人の心を考えず無責任に傷つける時もある。
自分の存在価値をはかるためなら、他人を簡単に傷つける人だっている。
今の社会は、そんなもんだ。
だからこそ、詩乃さんは、笑い話にしようとからかってくれた。
詩乃さんは、信用できる人だ。
叶翔も、教室に入るなり困っているのを見て助けてくれた。
それに、昨日もお世話になった。
助けてもらってばかりだ。
望月さんも、何もわからない中、背中をさすってくれた。
俺は、人のことが簡単に信用できないところがある。
こんな社会だからこそ、裏切られるのが怖いのだ。
でも、この人たちは、心の優しい信用できる人たちだ。
そういえば、入学したばっかりなのに、二人はやけに親しげにしていた。
多分、望月さんも、そう思っているはずだ。
「はーい。席についてー」
そんなことを考えていると、先生が入って来た。
時計を見ると、もう8時50分を指していた。
ホームルームの時間だ。
「やべ、先生だ」
「今日のお昼、みんなでご飯ね〜。決定!」
そう言って、二人は急いで自分の席に向かう。
勝手にお昼の約束をされてしまった。
二人の席は俺たちとは反対の廊下側なので少し遠い。
二人のバタバタした感じが面白くて望月さんと向かい合って笑う。
初日から色々あったが、人の優しさに多く助けられた。
こんな感じで、俺の高校生活は、いい形で始まったのだ。
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