いつかの予定...
服を着て脱衣所を後にしてリビングに戻り、ソファーに座っていた小雪の隣に腰掛ける。
服は、脱衣所の床に綺麗に畳まれて置いたあったものを着た。
なぜ男用の下着とパジャマが小雪の家にあったのかはわからないが、着る物がなかったので不思議に思いながらもありがたく着させてもらっている。
ソファーに座っている小雪との距離は、風呂に入る前より少し遠いような気がする。
「小雪」
「はい...」
小雪は名前を呼んだだけなのに、肩をビクッとさせ、なんだか気まずそうに返事をする。
「お腹すいたな」
「ご飯どうする?」
「外食でもするか?」
「あ、ご飯のこと...」
「ご飯できてるよ」
小雪は、やけにホッとした顔でそう言った。
多分、先ほどの風呂のことを聞かれると思って身構えていたのだろう。
さっきのことは、小雪の気の迷いで起こったことだと思うから触れないことにした。
昔の小雪は、もっとこういうことに弱くて、男の身体を見るだけで恥ずかしがっていたから少し血迷ってしまっただけのはずだ。
でも、そこまでしてなんで風呂に入ってきたのだろうか。
その後、2人で小雪手作りのご飯を食べた。
初めて小雪のご飯を食べたけど、俺の好きなものばかりでとても美味しかった。
ホテルで出てきそうなご飯ではなく、家庭の味という感じで、努力して料理を作れるようになったとわかる心のあたたまる料理だった。
実際に、台所は料理を作った痕跡で汚れていたり、たくさんの料理の本やレシピ本が開いて置かれていた。
小雪が料理を頑張って勉強して、俺のために作ってくれたと考えると、レストランで出てくるどんな料理よりも百倍美味しく感じた。
これが、愛情の味というやつなのだと思った。
まあ、俺が小雪に片想いしているだけだけど。
そして、ご飯を食べ終えた俺たちは、一緒に食器を洗って歯を磨き、今は寝室で立ち尽くして会議をしているところだ。
会議の内容は、どこで寝るかについてだ。
「小雪、ベッドで寝ていいぞ」
「それじゃあ、湊音はどこで寝るのよ」
「俺は...そうだな...」
「リビングのソファーでいいよ」
「ダメよ」
小雪は、やけに真剣な顔でそう言った。
それに少し不安の混じった顔をしていた。
「なんでさ」
「同じ家にいたら、ずっと一緒だろ?」
「だって湊音がまた消えたら私...もう耐えられないよ...」
「だから、湊音はずっと私のそばにいなくちゃだめよ」
小雪は、俺の胸に顔を埋めながら身体を震わせてそういう。
俺は、小雪がここまで震えているのに心当たりがあった。
幸せな雰囲気で包まれて忘れていたこと、いや考えないようにしていたこと。
叶翔の仮説。
小雪と望月さんは、睡眠と何かがトリガーで歯車が回るように入れ替わる。
睡眠以外の何かの正体はまだわからない。
でも、この仮説はきっと正しい。
今までも、小雪と望月さんが入れ替わる時はいつも俺が寝て起きた時、つまり睡眠をした時だった。
今日も2人が入れ替わる可能性は高い。
でも今回の入れ替わりは、1ヶ月間も起こらなかった。
入れ替わる頻度が極端に落ちていた。
だからこそ小雪と長く過ごせる可能性もあるが、逆にいうと、今入れ替わると次小雪と会えるのがいつになるかわからない。
それに、小雪はさっき俺がまた消えると言った。
まるで、俺が小雪の前から消えているみたいな言い方だ。
2人が入れ替わっているはずなのに、どういうことだろう。
そう考えると、2人が入れ替わっている時俺が会っていない望月小雪はどうなっているのか知らなかった。
小雪が、こんなにも不安で震えているということは、当人から見ると俺がいきなり消えるみたいな感覚なのだろうか。
「わかった」
「じゃあ、あのベッドで一緒に寝るとかはどうだ...?」
明らかに一人用の幅しかないシングルベッドを指さしてそう言う。
俺も、小雪が消えるのが怖い。
それにもう2度と会えない可能性もある。
こんな意味のわからない謎で、小雪との幸せが簡単に崩れると思うと俺も恐怖で体が震えてくる。
だから、1秒でも小雪のそばにずっといたい。
そう思った。
「うん...それならいいよ」
さっきの風呂の件は、どちらも理性を抑えられなくて起こったであって、今の俺たちは理性を保っている。
だから何も起こらないはずだ。
純白のベットに身体が触れないくらいの距離で2人で寝る。
「じゃあ、電気消すよ」
そう言って、ベッド近くの電気のスイッチを押して照明を消す。
窓から、月明かりが俺たち2人を照らすように差し込む。
小雪の良い匂いに包まれて眠くなる。
小雪の匂いは、とても落ち着く懐かしい香りだ。
でも、下に落ちそうなくらい狭いベッドで落ちないように身体に力を入れなければいけなくて寝るどころではなさそうだ。
「ちょ、小雪...まずいって」
そんな時、小雪が俺の後ろから抱きつくように腕を身体に回してくる。
小雪の柔らかい身体と、胸の感触を背中で感じる。
足も絡めてきて、小雪は夏でショートパンツを履いたので、スベスベの柔らかい生足の感触を直に感じる。
「何がまずいの?」
「私にぎゅーされるのいや?」
「...」
俺はその問いに、何も返さなかった。
俺も小雪を抱きしめたい衝動に駆られる。
イヤじゃない嬉しいさ。
でも、今の俺たちはもう大人になった。
ベッドで抱き合うと言うことは、心も身体も許し合うということで、昔とは違う。
小雪とそういうことをしたいと思う。
でも、愛した人だからこそ大切にしたい。
だからこそ俺は、肯定も否定もせず何も言わなかった。
だって...
「ねえ湊音、明日どこ行こっか?」
「お家デートもいいけど、夏だから海とかお祭りに行きたいな」
「ねこちゃんも見に行きたいから、猫カフェにもいきたいな」
「...」
「私ね、湊音と行きたい場所がたくさんあるんだ...」
「また昔みたいに楽しい思い出を作って、日記を全部埋めて幸せになるの...」
「...」
「湊音、もういなくならないよね...」
だって、
これが最後かもしれない。
今は...この幸せを噛み締めたいから。
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