ふたりぼっちの教室
「全然眠れなかった…」
学校から帰った後は、夜ご飯にインスタントラーメンを食べた。
その後、貧血用の薬を飲んで寝た。
小雪のことで頭の中がいっぱいで結局眠れなかったけどね。
テスト前も毎回こんな感じだ。
頭の中に入れた知識がぐるぐるして眠れない。
今回もそのような感覚だった。
なかなか寝ることができず、昔の小雪と今日会った小雪を写し鏡みたいに脳内で照らし合わせていた。
でも、やっぱり昔の小雪とは違っていた気がする。
まるで、鏡の中の自分が動いているみたいにおかしな出来事だ。
見た目は同じなのに中身が違う。
結局、またインスタントラーメンを食べる始末だし。
こういうことを世間では、無限ループというらしい。
ご飯を作ってくれる人が居ればいいのだが、もちろんそんな人は居ない。
居ないものをねだってもしょうがないのはわかっている。
でも、欲しいものは欲しいのだ。
そんな現実逃避はこのくらいにしておいて、俺は学校に行く準備を進める。
今日は、早めに出ることにした。
小雪と話したいことがある。聞きたいこともある。
まだ信じられない。
でも、あれは小雪じゃない。と本能が言っている気がした。
とりあえず、本人に確認しないことには始まらない。
今日は、なるべく学校に早く行こう。
そう決めた俺は、家の戸締りを確認して富士山駅まで歩き、電車に乗り込む。
河口湖駅につき、すでに到着していたバスに乗り込み学校に向かう。
「ガラガラ」
昨日とは違い教室のドアをゆっくり開ける。
教室の時計は8:15分ごろを指していた。
早く来すぎたのか教室には誰もいない。
「まって…俺の席どこ?」
そう。昨日の俺は学校に来てすぐに倒れたから、自分の席を知らされていなかったのだ。
自分の席がわからず、教室を3分くらいぐるぐるしていると突然ドアが開く。
突然というか、ドアが開くのは普通のことか。
昨日、目立ってしまったから、他の生徒に会うのに緊張しているのだと思う。
「あ、昨日の…」
ドアを開けたのは小雪だった。
教室に入って来た小雪と目が合う。
何事もなかったように小雪は教室に入って来て自分の席にちょこんと座る。
俺のことは無視らしい。
「ずっと立って何しているんですか…」
そのまま俺は突っ立っていると、小雪が話しかけてきた。
えっと、なんか怒ってる?
「あ、自分の席がどこかわからないんだ。昨日、保健室にいたから。」
突然話しかけられて驚いて小雪なのにたどたどしくしてしまう。
「ここですよ。私の隣です。」
トントンと自分の隣の机を叩く。
俺の席は小雪の隣らしい。
昔もずっと小雪の隣にいたが、高校でも隣らしい。
素直に嬉しい。
「何、にやけてるんですか…」
顔に出ていたらしい、まずいまずい。
「あ、ごめん」
隣会った席に、2人並んで座る。
今は、俺と小雪、ふたりぼっちの教室だ。
小雪はこっちに目もくれず富士山を眺めている。
昔だったら、俺がくるとベタベタとくっついて来たのに、今は見向きもされない。
やはり、別人みたいだ。
でも、綺麗な横顔は昔そっくり。亜麻色の髪も昔のまま。
近くで見るとより小雪だと確証が得られる。
小雪に姉妹はいなかった。
やっぱり、本人のはずだ。
「あの…さっきからジロジロと見て。本当になんですか?」
女の子は視線に敏感と聞くが本当らしい。
「いや、小雪は昔と変わらないなと思って。」
「昔って…私達、昔どこかでお会いましたか?昨日が初対面のはずです。」
あきれ気味にそう返してくる。
「何言ってるんだよ小雪。また、いつもの冗談か何か?」
「俺たちよく会って遊んでいたじゃないか。」
俺は、冗談かと思い少し笑い気味にそう返す。
「ごめんなさい。本当にあなたのことは知らないです。」
「初めて見た時、どこかでお会いしたような感覚はしたのですが、思い出せなくて。」
少し怒っていた小雪が、申し訳なさそうな顔で優しくそう言った。
昔、初めて小雪と会った時は、今のように敬語を使って丁寧に話しかけてなどこなかった。
昔と、今の小雪はあまりにも違いすぎる。
俺も、もう現実を見るしかなかった。
「本当に、本当に俺のことは知らないのか?」
「はい。ごめんなさい…」
「そうか」
ふたりぼっちの教室に沈黙が流れる。
名前を叫んだ時から薄々気づいていた。
昨日も、別に頭の中が混乱していた訳じゃないと思う。
ただ現実を受け入れたくなかっただけだった。
一様、確認しておきたいことがある。
「3年前から高校入学するまでの間、何かあったか?」
「何かって?」
「事故とかそういうアクシデントとか」
「いえ、特には」
著しい記憶喪失でもない。
思い出せないと言うから記憶喪失のたぐいかと思ったが違う。
もう、認めるしかないんだ。
“この小雪は小雪じゃない”
「そうだよな。」
「昨日は悪かったな。いきなり名前を呼び捨てにして叫んでしまって」
「いえ、それは全然大丈夫ですけど…」
「そんなことより、涙が…」
「え?」
あれ…?
なんで…もう受け入れたはずなのに。
「このハンカチ使ってください。」
鳥の柄がついたハンカチを受け取る。
“あ...ちょっと、もう無理だ”
3年前突然姿を消した小雪に会えたと思ったのに、別人だった。
そのショックは少しずつ俺の気持ちを削っていた。
「本当にごめんなさい。私のせいですよね…」
「違う。違うんだ。君のせいじゃない。」
今の小雪が悪い訳ではない。
俺は、小雪に、そうであったらいいなという期待を勝手に押し付けただけだ。
勝手に思い込んでいた俺が悪い。
でも、有頂天な気持ちからどん底に落とされた俺の心は、もうズタボロだった。
幼馴染としての絆があったからこそ、そう簡単には受け入れられなかった。
それに俺は、小雪のことが好きだったから。
望月さんがゆっくり背中をさすってくれる。
その優しさに、どんどん涙があふれ出てくる。
「よしよし。私にはこんなことしかしてあげられないの。ごめんね。」
ふたりぼっちの静かな教室には、
俺の激しい嗚咽と、手のひらが優しく背中をさする音だけが響いていた。
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