求めていた日常
「湊音はいつものでいい?」
「うん。頼んだ」
ソファーに座りテレビをつける。
小雪は台所に向かい、レジ袋の中身を冷蔵庫にしまって、紅茶を垂れ始める。
「お待たせ、いつも通り甘くしてあるからね」
「おう。ありがと」
俺の前には、当たり前のようにいつものミルクティーが置かれる。
小雪はアールグレイだ。
「小雪の作るミルクティーは、程よく甘くて美味しいな」
「湊音は、まだまだお子ちゃまですねー」
「私は、大人のお姉さんなのでアールグレイです」
そんな少し苦いのを我慢した顔で言われても説得力ないよ、小雪お姉さん。
二人ぴったりくっついて、テレビの天気予報を見ながら紅茶をたしなむ。
小雪は、いつもよりやけに身体をくっつけてくる気がする。
俺も嫌ではないどころか嬉しいから、そんな小雪を許してしまう。
『こんにちは。お昼の天気予報です。3ヶ月続いた雨空も今ではこのように快晴です。気象庁によりますと、こんなことは初めてであり、雨雲が突然消えるようになくなった。これからの天気も予想はできないがおそらく快晴が続くとのことです。街の方達は...』
いつものベテランキャスターと、黄色いマスコットキャラクターが最近の異常気象について説明していた。
「3ヶ月連続の雨って...昨日は晴れていたよな?」
昨日は、屋上でご飯を食べていたし、すごく晴れていて過ごしやすかった記憶がある。
「え?昨日もすごい土砂降りだったでしょ?」
「湊音、昨日家から出てないでしょ?」
「昨日は学校だったし、仕方なく家出たよ」
「なんで学校に?湊音、学校嫌いだったじゃん」
「だって仕方ないだろー。学校行かないと卒業資格もらえないし」
「学校は行きたくないけど、卒業資格は欲しいだろ?」
「え?夏休みなんだから別に行かなくていいじゃない」
「授業もないわけだしさ」
夏休みと言ったか?
夏休みなら意地でも学校には行かないが、あいにくなことに今はまだ6月の初めだ。
「夏休み?小雪、まだ夏休み気分は流石に早くないか?」
「だってまだ6月が始まったばかりだろ」
「あと2ヶ月もある」
「どういうこと?今日は8月1日でしょ?」
8月1日?
確かに俺は正式に6月1日と確認したわけではないが、昨日が5月の終わりだったから今日は6月1日のはずだ。
「ほら」
そういって、小雪は俺にスマホのカレンダーアプリの画面を見せてくる。
「本当だ。8月1日だ」
スマホの画面にはしっかりと8月1日と表示されていた。
「ね?もうおかしな湊音ね」
「小雪、ちょっと俺のほっぺをつねってみてくれ」
「え?いいけど...」
小雪が俺の頬を、軽くつまんで引っ張る。
「痛いな」
「当たり前でしょ」
おかしいな。
確かに今日は6月1日のはずなんだけどな。
「ねえ、見て湊音」
「あのネコちゃん可愛い」
小雪は俺の袖を引っ張りながら目を輝かせてテレビの中の子猫に目線を送っている。
「うわ、確かに可愛いな」
「でしょでしょ」
「俺は、あのミルクティーみたいな色の猫が好きだ」
「ミルクティーのネコちゃんも可愛いけど、私はあのねずみ色のネコちゃんも好き」
のんびりとソファーに座って紅茶を飲みながら、そんなたわいのない話をする。
これだけで十分だ。
小雪が目の前にいる、それだけあれば日付とか謎とかはもうどうでも良かった。
今はひたすらに、肩を寄せ合って小雪とのゆったりとした日常が幸せだ。
「あれ?この日記って...」
ふと目に入り、机の上に置かれた見覚えのある日記を手に取り、ページをパラパラとめくる。
その日記には、30ページほど内容が書かれていて、最初の2ページは俺の知っているものだった。
「あ、それ私の日記」
「ちょっと、恥ずかしから勝手に見ないでよー」
最初の2ページ。
それは、望月さんが思い出したように書いていた内容と同じだった。
やはり、あの日記の内容は小雪の書いていた日記の内容だったのだ。
「これ、3年前に書いたやつ?」
日付が3年前のものだったのでそう問いかける。
「そう。私と湊音の思い出よ」
「もしかして小雪、俺がいなくなったから寂しくてこの日記を見てたのか?」
いつも過ごしているソファーの前の机に置かれているということは、最近この日記を開いたからということだろう。
「べ、別に、湊音が突然現れなくなって寂しくなってこの日記が湊音だと思って一緒に寝てたとか、見てた訳じゃないからね」
露骨に早口になりながら、弁明をする小雪。
嘘だってわかりやすいけど、すげー可愛い。
「でも、おかしいね」
「この日記は、昔消したはずなのに...」
「消した?」
「そう。なんだか消しておいた方が良い気がして消したのだけど、最近この日記を見つけて開いてみたらなぜか復活してたの」
やはりこの日記は謎に包まれていた。
「おかしなこともあるもんだな」
俺は、そう一言だけ言って日記を閉じ机に置く。
いつもなら、謎について詳しく考えるところだが、今はもうなんでも良かった。
『お風呂が沸きました♪』
そんな中、風呂場の方から風呂が沸いた合図の電子音楽が聞こえる。
「あ、お風呂沸いたみたい」
「先入っていいよ」
「湊音、服も濡れて体冷えているでしょ?」
小雪とくっついていて体温で少しはあったかいとはいえ、服は濡れていたので確かに身体が冷えてきたところだった。
でも、小雪も雨の中買い物に行っていて体が冷えていると思う。
俺は小雪の体調のほうが大切だ。
「小雪も身体が冷えているだろ?」
「小雪は、女の子なんだから男の俺より体調を崩しやすい」
「俺は男で身体が強いから大丈夫だから、先はいって」
「いやいやいや、私は大丈夫」
「み、湊音先入ってってば」
「ちょっと、わかったから押さないでくれー」
背中を軽く押されながら風呂場に向かう。
小雪は、何故かやけに俺を先に風呂に入らせたいみたいだ。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞー」
そう言って、脱衣所のドアが閉められる。
この後、俺はこの時の小雪の様子がおかしかった理由をすぐに知ることになる。
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