この世界という現実
遡ること1ヶ月前…
それは、小雪と公園で遊んだ次の日と言うべきか、俺にとってはそうではない二回目の25日の話。
「…とくん、朝ですよ」
「起きないと…その、ちゅ、ちゅーしちゃいますよ」
「な、なんて言ってみたり、あはは」
隣で一人話す声が聞こえる。
その話し声の正体が気になり、重い瞼を上げる。
真っ先に視界に入ったのは、昨日、目を閉じる前に見た景色とは違う、いつも見ないが知っている天井が目に入る。
窓の外を見ると、朝日が差し込んでいて純白の部屋を照らしている。
富士山には、もくもくと雲がかかっていた。
覆い被さったふかふかの布団からは、花の良い香りが香ってくる。
そんな中、隣から暖かい温もりを感じる。
窓から視界を外し、その違和感の方向に目を向ける。
「あ、おはようございます湊音くん」
「よく眠れましたか?」
寝そべりながらこちらを見ている望月さんと目が合う。
「え?あ、うん」
最初は少し困惑したが、またか。
そう思った。
朝で活性化していない脳でも、今起こっている出来事はすぐに理解できた。
小雪と望月さん、二人の見た目は全く一緒だが、どちらとも長く深い関係を築いていくうちに、本能で見分けられるようになっていた。
小雪と望月さんは、纏っている雰囲気が全然違った。
「なあ、望月さん」
「今日何日?」
今、目の前にいるのは望月さんだ。
「今日ですか?えっと…」
そう言って、望月さんは枕元にあるスマホに手を伸ばす。
「今日は、25日みたいですね」
俺に向けられたスマホの画面には、25日と示されていた。
そう。25日と…
つまり今日は、俺にとって二回目の25日というわけだ。
同じ日付が二回続く時は、決まって望月さんと小雪が入れ替わるという憶測は、もう確証に変わっていた。
やはり、二人には何かしらの因果関係がある。
そうでもない限り、こんなにも都合よく入れ替わるなんてことは起こらないだろう。
「25日…そうか。ありがとう望月さん」
そう言って、ベッドに手をついて起きあがろうとする。
しかし、手が痺れるように力が入らない。
「あ、ごめんなさい」
「多分、その、寝る時に私がずっと腕に抱きついていたから…」
そうだった、手に抱きつかれて俺は身動きが取れない状態で寝たのだった。
血が止まって手が痺れる。
差し伸べられた望月さんの手を取って、ベッドから起き上がる。
二人で寝室を後にして、リビングに向かう。
リビングのダイニングテーブルには、二人分の料理が並んでいた。
「じゃーん、朝食を作っておきました」
「これ、一人で作ったの?」
目の前には、ホテルで出てきそうな手の込んだ朝食が並んでいた。
少なくとも、高校生が作れる代物ではないほど美味しそうだ。
「はい。その湊音くんを驚かせたくって」
「ちょっと頑張っちゃいました」
「えへへ」と少しもじもじしながら望月さんが笑う。
「すごいな…」
「ありがたくいただくよ」
二人でテーブルに並んで座り、手を合わせる。
「いただきます」
「はい。いただきます」
まずは、真っ先に目に入った生ハムを食べる。
「うん、すごく美味しい」
当たり前のように、座って朝食を食べているが、こんなことは一般家庭ではないことだ。
俺は、幸せを噛み締めるように箸を進める。
「やった」
「ありがとうございます」
望月さんは、満面の笑みでとても嬉しそうだった。
それにしても、高校生でこれを作れるのか…
望月さんの料理はどれも絶品で、毎日食べたいくらいだ。
ぜひ、うちに来て作って欲しい。
昨日の夜食でも思ったが…
いや、俺にとっては一昨日の夜か。
一昨日の夜食もとても美味しかった。
そう思いながら、ご飯を食べつつ今日の朝の出来事について考える。
俺は、今回の出来事に違和感を覚えていた。
前回は、自分の部屋で寝て起きて、日にちがループした。
これならまだ理解できなくもない。
しかし今回は、俺の部屋で寝たのにも関わらず、起きたのは望月さんのベッドだった。
一回目の25日の朝同様、物理的にありえない現象が起こっている。
となると、小雪が現れた時に不思議な現象が起こるという仮説は間違っていたのか?
今回現れたのは望月さんだ。
にも関わらず、不思議な現象が起きた。
いや、でも今までは望月さんが現れる時は総じて何も起こらなかった。
仮説は正しいはず。
ということは、小雪と過ごした一回目の25日という現実がおかしいってことなのか?
確かに、それなら納得がいく。
24日に望月さんの家で寝て、今日望月さんの家で起きた。
昨日のことを換算しないのであれば、至って普通だ。
他の謎は全て物理的にあり得ることだが、瞬間移動なんて物理的には無理なことだ。
そして、望月さんに、腕を掴まれて身動きが取れなかった。
夢遊病などの可能性もない。
でも俺の脳は、昨日という出来事を明確に認識し記憶している。
大声で現実だと訴えていた。
二人でベンチに並んでアイスを食べたり、3年ぶりに昔みたいに遊んで楽しかった思い出…
それに、新しい約束をした小指の感覚はまだ鮮明に残っていた。
じゃあ、なんなんだ…
ついに望月さんがいる時でも不思議なことが起こり始めたってわけか?
そんな思考を巡らせていると、ふと一つの仮説が頭に浮かぶ。
最悪な仮説。
いや、そんなわけないだろう。
何を言っているんだ俺は、本当に頭でも打ったのか?
そんなわけない…こんな考えはよそう。
「あの、湊音くん?」
「ご飯美味しくないですか…?」
「無理して食べなくても大丈夫ですから」
そんな最悪な仮説が脳裏に浮かび、ボーとしている俺に望月さんがそう問いかける。
「え?」
「あ、ごめん」
「ご飯は本当に美味しいよ」
「ちょっと考え事をしていただけだよ」
「そ、そうですか?」
「ほらこのオムレツ、めっちゃうまい」
「それなら良いのですが…」
「えっと、何か嫌なことがありましたか?」
「え?」
「湊音くん、ひどい顔していますよ」
「いや、大丈夫だから…」
小雪と望月さんの関係。
望月さんは、何かを隠しているのかもしれない。
今は小雪のことを話すのは、先決な判断ではなさそうだ。
「何かあったら言ってくださいね」
「私にもできることがあるかもしれないですから」
ご飯を食べ終えて、一緒に食器を洗う。
食器を洗い終えた後、洗面台に干しておいた服を取りにいって、着替える。
少しの手がかりでも良い。
確認したいことがあった。
昨日がなかったなんてありえないことだ。
昨日の中でも、あの公園だけは特別だった。
明確に、昨日が現実であったという証明でもある。
俺は、足早に玄関の靴箱に向かい、まだ濡れている靴を履く。
「どこ行くんですか?」
靴紐を結んでいると、後ろから望月さんが問いかけてくる。
「ちょっと出かけるだけ」
「望月さんは、過保護すぎる。心配しすぎだ」
「心配します。やっぱり湊音くん顔色悪いです」
「大丈夫、本当に大丈夫だから」
身体はいたって正常だ。
気持ち悪くもなければ、頭も痛くはない。
少し混乱しているだけだ。
「じゃあ、せめてどこに行くかだけでも教えてください」
「八木崎公園って所に出かけてくる」
「八木崎公園…」
鍵を開けて、ドアを開く。
「じゃあ、行ってき…」
「待って!私も行きます」
俺の言葉を遮るように、望月さん言う。
「なんで?」
素直にそう思った。
望月さんには関係のない場所だ。
「なんとなく行ってみたいんです」
望月さんの動機は、ざっくりしたものだった。
でも、望月さんの顔はいたって真面目だった。
「わかった。じゃあ待っているから着替えてきて」
今の望月さんは、何を言っても聞かなそうだ。
なぜか、それほどまでに望月さんは真剣だった。
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