たわいのない日常。それが幸せ
バスが目的の場所につき会計を済ませるなり、小雪は出口から飛び出すようにバスから下車する。
「湊音、早くー」
小雪が離れたところで、バスから下車したばかりの俺に、こちらに来るよう手を大きく振っている。
「はいはい。今行くから」
小雪に聞こえるように、少し大きな声でそう言う。
バスを後にして、思い出の地に踏み込む。
その地に歩みを進めるたびに、胸が熱くなるような感動を覚える。
普通のどこにでもあるような公園。
でも、俺たちにとっては特別で大切な思い出の詰まった公園。
成長した今でも、訪れるだけで自然と笑みが溢れる、そんな場所だ。
そんな3年ぶりの公園は、時が止まったかのように昔と変わっていなかった。
子供と犬を連れた夫婦が楽しそうにピックニックをしていたり、川沿いを老夫婦が会話をしながらゆったりと歩いていたり、この公園は幸せな空気に包まれて、時間がゆっくり進んでいるように感じる。
ここに帰ってくると、そんな俺たちの時間も昔から止まっていたかのように、楽しかった感覚が蘇ってくる気がする。
離れたところにいる小雪を、昔のように小走りで追いかける。
辺りを見回すと、昔と変わらず芝が綺麗に整えられた草原が広がっている。
そしてその奥には、どこまで続いているかのように広がる大きな河口湖と青空の上まで聳え立つ美しい富士山。
「うわー湊音ーー」
そんな美しい景色を見ながら走っていると、突然こちらに向かって小雪が走ってくる。
『バタン』
小雪が走る勢い任せて優しくぶつかってきて、二人して被さるように芝の上に倒れ込む。
「う、重い」
「女の子に、重いってなによ」
「昔はそんなこと言わなかったのに、体重気にしているんだからね」
小雪は、比較的にスタイルが良い方だと思う。
でも、昔にはなかったものが成長していて、ずっしりと体に乗っかっていて重い。
上に被さる小雪を隣に転がすようにどけて、手を広げながら、横並びにふわふわの羽毛のような草原に寝転ぶ。
「ふふ」
「なんで笑ってんの?」
「いや、昔とおんなじだなって思ってさー」
「昔もこうして、ここでお昼寝したよね」
こんな光景も昔と変わらない。
そう、昔と同じだ。
小雪も俺も、この公園も。
「それで、夜まで寝て警察の人にお世話になったよな」
「懐かしいな」
そんなこともいい思い出だ。
「本当、馬鹿なことばっかりやっていたよね」
「誰のせいだよ」
「私は悪くないわよ」
「だって、湊音ものりのりだったじゃん」
「そうだったか?」
「もう」
「でも、馬鹿だったけどさー、なんだかんだ全部楽しかったよね」
「そうだな」
「いい思い出だ」
3年間疎遠になっていて、こんな当たり前も当たり前のことじゃない幸せなことなのだと実感する。
こんな綺麗な青空も、小雪とみるとより美しく見える。
これからも昔のように過ごして、小雪との時間を大切にしたいと思う。
もう何年も小雪が隣にいないのは耐えられない。
「なにしんみりしているのよ。まだ終わってないでしょ。これからよ」
「これからも、思い出をたくさん作るの」
そう言いながら起き上がった小雪が、長い髪を耳にかけながらこちらに手を差し伸べてくる。
「ああ。これからもまたよろしくな」
手をとって立ち上がる。
富士山から覗く夕日に照らされて、3年ぶりに再開した小雪と、昔とは違った青春の物語がまた始まったのだ。
そうだ。
これからだ。
「よーし、いつものとこでアイス食べて帰ろっか」
「お。あのアイスか」
「上手いんだよな」
「私いつもの、巨峰アイスにしよー」
「じゃあ俺は、濃厚バニラ」
「本当好きだよね、バニラ」
「あそこのバニラは、本当の意味での濃厚だからな」
「そこら辺の濃厚とは違うんだよ」
「じゃあ半分こね」
「いつもそう言っていっぱい食べるから、今回はきっちり測るからな」
「別にいいじゃんか少しくらい」
「だめだ。あそこのアイスは譲れん」
「湊音のケチ」
昔のように肩を軽くぶつけながら、隣り合わせで歩いて、たわいのない話をする。
「あれ、今日何しにきたんだっけ?」
ふと何かを忘れている気がしてそう問いかける。
「ん?」
「忘れたけど、アイス食べにきたってことにしよう」
「ま、まあいいか」
まあ楽しかったからよしとしよう。
そんなこんなで、小雪とのいつも通りの日常が戻ってきたのであった。
そう、これからもだ。
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