膝枕耳かき
食器を洗い終えた俺たちは、リビングに戻ってソファーに並んで座って雑談をしている。
日常の笑い話や、図書員会のことなどたわいのない話をしていると、突然望月さんが話題を変える。
「そうだ、さっきこんな物も買ってきたんです」
そう言ってソファーの隣に置いてあった袋から、耳かき棒を取り出す。
「耳かき棒?」
「そうです。この耳かき棒、snsのトレンドに入っていて気になったので」
「なんで耳かき棒がトレンドに入っているんだ?」
見た目は、どこにでも売ってそうな耳かき棒だ。
「なんか、耳かき棒の先端にオイルが染み込んでいて、すごく気持ちがいいらしいですよ」
「えー、そうなのか」
「耳かきっていうと昔を思い出すな」
「よく母親にしてもらっていた」
そんな話をすると、望月さんが少し困った顔する。
「そ、そうなのですね」
「えっと、悪い、何か嫌な話だったか?」
「いえ、少しお母さんとの思い出を思い出してしまって…」
「私の両親は、昔に離婚しているので…」
「そうだったのか…」
「ごめん、知らずにこんな話をしてしまって」
「いえ、本当に大丈夫です」
その笑顔は、ぎこちない物だった。
昔に辛いことがあったのだろう。
「そうだ。お母さんの代わりとは言わないけど、俺が耳かきしてあげるよ」
決してお母さんの代わりとは言わない。
過去のことを忘れろとも言わない。
でも、今の望月さんは幸せに生きてほしい。
今までは俺がずっと助けられてきた。
今度は俺の番だ。
「では、お願いします」
そう言って、俺のふとももに頭を乗せてくる。
いつもは、恥ずかしそうにしている望月さんも、今日は素直だ。
それほどまでに、両親の離婚は望月さんにとって辛いことだったのだと思う。
箱から、耳かき棒を1本取り出す。
「じゃあ、入れていくね」
そう言って、耳に耳かき棒を入れていく。
耳を傷つけないように、慎重に耳を掻いていく。
これであっているのだろうか…
人にしたことが無いのでわからないが、望月さんの手が、ソファーから水のように力が抜けて落ちているので多分満足してもらえていると思う。
こうして大切に耳かきをしていると、望月さんをすごく愛おしく感じてくる。
「ん...」
そんなことを考えていると、望月さんが急に変な声を出す。
「望月さん、痛かった?」
少し強くやりすぎたのかもしれない。
「痛いとかそういう訳ではないです。むしろすごく気持ちがいいです」
本人が痛くないというのならいいのだが。
「そ、そう?」
「じゃあ、続けるね」
そう言って耳かきを続ける。
「ん...」
耳かきを続けていると、また望月さんが変な声を出す。
「望月さん、本当に大丈夫??」
本当は痛いのを我慢しているのかもしれない。
それだと、申し訳ない。
「その、気にしないでください...」
やはり、大丈夫らしい。
じゃあ、さっきの声はなんだったんだ。
「よし、次は反対ね」
「顔の向き変えてもらえる?」
右耳を掃除し終えたところで、そう言う。
「えっと、望月さん?」
「気持ち良すぎて、力が入らないです…」
「助けてくださいーー」
そんなに気持ちが良かったのか?
初めてで、勝手がわからなかったが満足してもらえているみたいでよかった。
仕方がないので、望月さんをソファーに転がすように体の向きを変えて、頭を自分の太ももに乗せる。
「なんか、この体勢恥ずかしいな」
今は、望月さんの顔が俺の腹の方を向いている状態だ。
望月さんが、呼吸すると息が腹に当たってくすぐったい。
望月さんは脱力しきっていて、あまり喋れる状態ではないみたいだ。
「じゃあ、反対もしていくよ」
反対の耳に耳かき棒をゆっくり入れていく。
しばらく反対の耳を丁寧に掃除していくと、望月さんが急に顔を腹にうずめて、腹を抱き締める形で背中に腕を回し、足を体操座りのように畳んで俺の腹を中心にして丸く縮こまってくる。
「ちょ、ちょっと望月さん!?」
望月さんは、俺の腹の中でさっきの変な声を何回も出している。
腹を抱き締められて恥ずかしいが、耳かきが奥に刺さると危ないので抵抗できない。
多分耳かきが終わるまで離れないつもりだ。
仕方がないので、このまま耳かきを続ける。
「よし。終わったよ望月さん」
ある程度掃除し終えたところで望月さんにそう呼びかける。
丸く縮こまっていた望月さんが思っていたよりすんなりと体を起こして、咳払いをする。
「す、すみません。少し取り乱してしまいました」
「ありがとうございました。とても気持ちよかったです」
望月さんが、満足した顔でお礼を言ってくれる。
「どういたしまして」
さっきまでの暗い顔はすっかり晴れていた。
元気になってくれてよかった。
そんな元気になった望月さんの顔を見ていると、何やら望月さんが自分の太ももを『ぽんぽん』と軽く叩いている。
「私も、やってあげますよ」
「いや、俺はいいよ」
「そんなこと言わないで、すごく気持ちよかったので湊音くんにも体験してほしいです」
そう言って、望月さんが俺の頭を少し強引に、太ももに誘導する。
「わかった、わかったから頭離してくれ」
一度決めた望月さんはなかなか揺るがないので、おとなしく耳かきをしてもらうことにしよう。
それに、そんなに気持ち良いのなら体験したい。
俺は、なるべく望月さんに負担をかけないよう、太ももに体重をかけないように頭を預ける。
「ねえ湊音くん、私が重くないようにしてないですか?」
お見通しみたいだ。
「頭って結構重いぞ?」
さっき望月さんの頭を乗せた時、結構重かっ…
やっぱり、なんでもない。
「いいですよ。体重をかけてリラックスしてください」
そう言って頭を撫でられ、力が自然と抜けていく。
「危ないので動かないでくださいね」
耳に気持ちの良い感覚が走る。
「ふふ、気持ち良いですか?」
望月さんが、笑いを堪えながら聞いてくる。
「何笑ってるの」
「だって、湊音くんすごく気持ち良さそうな顔していて面白いんだもん」
「さっきの望月さんもこんな感じだったよ」
「あー、それは言わない約束です」
「生意気な、湊音くんにはこうです」
『フー』と耳に息をかけられる。
「ちょ、望月さん!?」
「生意気言う、湊音くんが悪いんですから」
俺耳弱いって、一昨日言ったばかりだよね。
ある程度右の耳が終わって、反対の耳を耳かきしてもらっている時、望月さんが突然話しかけてくる。
「湊音くん、何があったか聞いてもいいですか?」
「そうだよな。昨日まで普通だったのに急に様子がおかしくなって気になるよな」
俺は今日が2回目だが、望月さんは、俺と買い物をした次の日に、俺の様子が突然おかしくなった訳だから気になるに決まっている。
「簡潔に言うと、昨日小雪にあった」
「昨日...?」
望月さんは、驚いたというより困惑した顔をしていた。
24日は初めて望月さんに小雪のことを話した日でもある。
そして、24日は望月さんにとって、昨日のことである。
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