愛
4月24日、13:30。
スマホの画面にはそう表示されている。
今俺は、富士山駅から電車に乗り込み、学校の最寄りの河口湖駅に向かっている。
しかし、電車の走行音は愚か、雨音すら聞こえなかった。
それほどに頭は混乱している。
今朝、また一つ謎が増えた。
24日がもう一度始まったのだ。
ちなみに、俺の頭は正常だ。
昨日、24日は波乱の一日だった事を、脳は鮮明に記憶している。
そして睡眠をとり、確かに24日は終わりを迎えたはずだった。
しかし、今日の朝起きると、なぜか24日だった。
さらに、昨日書いた日記はまっさらに消えていた。
これで何個目の謎かわからないほど考えることが多い。
頭の中は、洗濯機みたいに、謎と謎がぐちゃぐちゃと混ざり合っていた。
しかし、今回ばかりはどうしようもない。
原因を探すことも、なぜ起こったかを考えることすら馬鹿らしいほど、ありえない現象が目の前に起きていた。
もう考えてもわからないことはしょうがない。
24日は、確かにもう一度始まっている。
確定したことは、どうやっても覆しようがないのだ。
とりあえず、今はすぐに解決できることに集中しよう。
今は、小雪と会うのが最優先だ。
1つずつ謎を解明していくのが現実的だ。
もう、ほんとに嫌になる。
解決しないままどんどん謎が増えていく。
「ブチ」
でも、逃げだしたい気持ちは山々だがやるしかないのだ。
河口湖駅に到着した俺は、学校までの道のりを歩き出す。
学校に着いたのは14:00くらいだった。
下駄箱で靴を履き替え、廊下を歩いき教室のドアの前に立つ。
「ガラガラ」
どうせ俺の姿は、見えない。
そう思い何の抵抗もなくドアを開ける。
「小雪、いるか?」
教室のドア付近から、小雪を呼ぶ。
「おい、矢野遅刻だぞ」
先生が、話しかけてきた…
見えないはずの俺に。
「え...」
唖然として、棒立ちになる。
「突っ立ってないで、早く座れ」
担任の先生が、俺に言う。
クラスメイトは、全員こっちに注目している。
昨日は、全員俺のことが見えていなかったよな…
見えたり見えなかったり。
1つ、2つ、3つと、どんどん謎が押し寄せてくる。
もう、何なんだよ…
その時、ほつれながらも細く繋がっていた糸が、『ブチン』と俺の中で切れる音がした。
「もう、訳わかんねーよ!」
そう叫んで、バックを置きっぱなしにして教室を飛び出す。
「おい矢野!」
教室からは、先生の呼び止める声が聞こえる。
そんな声も無視して廊下を走る。
そのまま何も考えず学校を飛び出す。
傘も刺さずに、雨の中一心不乱に走る。
何で見えているんだよ。
昨日までは見えてなかっただろ。
また謎が1つ増える。
でも、もうそんなのどうでもいいよ。
見えることは嬉しいはずなのに、今は全然嬉しくなかった。
予想外の再会、そして最低な自分、環境の変化、信頼していた人の失踪、訳のわからない現象。
そんなたくさんの謎に、心は疲弊しきっていた。
絶望と疲れで、俺はもうボロボロだ。
やるしかないのは重々理解している。
でも、脳ではそうわかっているが、心はそんなに簡単なものではない。
何もかもに絶望した俺は、何もない道の真ん中に立ち尽くす。
雨はそんな俺のことなど気にせず、理不尽にぶつかってくる。
この目の水が涙なのか、雨なのかわからない。
「湊音くん、湊音くん!」
そんな中、俺の名前を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
小雪が傘も刺さずにこちらに向かって走ってくる。
俺はそんな小雪のことを無視して、頭を向き直して歩き続ける。
後ろから、「ぴちゃぴちゃ」と地面を強く蹴る音が聞こえる。
音が近くなって腕を掴まれる。
そんなことも無視して、目的もなく歩き続ける。
「ねえ、湊音くんってば。待ってどうしたの」
呼び止められて手を強く引っ張られる。
「もう、俺にかまわないでくれ…」
消えそうな声でそう言いながら、掴まれた手を振り解くように振る。
「辛かったよね湊音くん」
次の瞬間、雨で冷たかった背中が体温であたたかくなるのを感じた。
後ろから優しく抱きしめらる。
思わず歩みを止める。
「今日の湊音くん、私と初めて2人で話した時と同じ顔してた」
「酷く悲しい顔」
望月さんだ…
「私は、湊音くんに何があったのかわからない」
「でも、何か辛いことがあったんだよね」
抱きしめる力が強くなるのを感じる。
「辛かったよね」
「もう、休んでいいんだよ」
そんな優しい言葉、今の俺には不相応だ…
「俺は、何も頑張っていない」
「何もできてない。何も解決できてない」
「結局俺は、最初からわからないと思い込んで、考えることを放棄していただけじゃないか」
「責任を、起こった謎に押し付けていただけだ」
「逃げる道を必死に探していただけだ」
雨の音と、俺の大きな声が道路に響き渡る。
「そんなことないよ」
「逃げてもいいんだよ」
「逃げてきた結果が、このざまだ」
「どんどん謎が積み重なって、もうわけがわからない…」
「何も解決できてないのは、全部自分自身のせいだ…」
そうだ。
俺は、解決するふりをして逃げていただけじゃないか。
俺が、全部悪いんだ…
「湊音くんは、頑張ったよ」
そう言いながら、望月さんは、俺を胸で優しく抱くように抱きしめる。
俺は、されるがまま望月さんの胸に頭を預ける。
望月さんの胸からは心臓の音が聞こえる。
「よしよし。本当にがんばりました」
抱きしめられながら、頭を優しく撫でられる。
その言葉を聞いた瞬間、今までの心の傷が洗い流されて救われた気がした。
望月さんは、これまでの俺を優しく包み込むように認めてくれた。
「頑張った」それは、今一番言われたかった言葉だった。
そうだ。
俺は、誰かに頑張っているって認めて欲しかったんだ。
この、辛さをわかって欲しかった。
「一人で辛かったよね」
「今は私が、ずっとそばにいるから」
「甘えていいんだよ」
誰にも助けを求めることができない。
そんな状況で、ずっと一人で戦ってきた。
1人は怖かった…
「ずっと1人で怖かったよ…」
泣きながら情けない声を出して、望月さんを強く抱きしめ返す。
「頑張った。本当にがんばったよ」
望月さんは、それ以外何も言わなかった。
初めて会った時のように、背中をやさしくさすられる。
ボロボロの心が、望月さんの優しさで包み込まれるように治っていく。
雨の中、誰もいない道で2人抱きしめ合う。
「今日は、お家帰ろっか」
雨で冷たいはずなのに、俺の心はとても温かくなっていく気がした。
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