記憶の食い違い
「こちら、日替わりコーヒーになります」
「少し苦手な場合は、そちらの砂糖を入れてお飲みください」
先ほど頼んだコーヒーが、俺の前に置かれる。
それとは別に、ケーキも用意されていた。
「えっと、これ頼んでないです」
俺が頼んだのはコーヒーだけで、ケーキは身に覚えがない。
「そちらは、特別サービスになります」
多分、先ほどの出来事を目撃していたマスターが気を利かせてくれたのだろう。
「ごゆっくり」
それだけ言って、マスターはカウンターに戻っていく。
ありがとうございます。
心の中でお礼する。
でも今は、ゆっくりコーヒーを飲む余裕はない。
先ほど目の前にいた小雪は、今はいない。
3年ぶりに再開したのに喧嘩してしまった。
正直、俺も状況が飲み込めていない。
一度、頭を整理しよう。
今日学校に行くと、いつも通り望月さんがいた。
でも、いつもとは違う様子だった。
昨日までは、確かに望月さんと買い物をしていたはず。俺もしっかり覚えている。
それに、最後に見た時は、望月さんだった。
でも、今日話したのは完全に小雪だ。
見た目が同じだから、望月さんだと勘違いしていた。
こんなにも俺が小雪と確証しているのには理由がある。
まず、いつもの望月さんとの明確な違いは、3年前のことをしっかり覚えていること。
望月さんは、覚えていないと言っていたはずだ。
それに、雰囲気が小雪だった。
潜在意識が小雪だと叫んでいたのだ。
あれは望月さんではない。絶対に小雪だ。
こうまとめてみても訳がわからないことばかりだ。
昨日は、確実に望月さんだった。
でも今日、いきなり小雪が現れた。
いつも望月さんが座っている席には、なぜかいないはずの小雪が座っていた。
じゃあ、望月さんはどこに行った?
今度は、望月さんが消えて、小雪が現れたのだ。
同じ名前でややこしくなってきた。
でも、やはり小雪と望月さんは、どちらも見た目は全く一緒だった。
こうなると、より訳がわからない。
小雪が現れて驚いた、でもそれと同じくらい今は謎に悩まされている。
わからないことはいくら考えても駄目なものだ。
とりあえず、今は気持ちの整理をしよう。
窓から見える富士山を眺めながらコーヒーを飲む。
こんな暗い心でも、富士山はいつ見ても清々しいほどに美しい。
綺麗な景色を見て、少し気持ちが落ち着いた気がする。
コーヒーは美味しいけど、俺には少し苦かった。
やっぱりまだまだ俺は子供みたいだ。
先ほども小雪と喧嘩してしまった。
あの時は怒りで、心のコントロールができていなかった。
小雪は確かに、俺が突然いなくなったと言った…
それは、俺の記憶とは全く違う物だった。
俺の記憶では、3年前、なんの前触れもなく小雪が突然姿を消した。
でも、小雪の記憶では、俺が突然姿を消したことになっている。
どいうことだ。
やはり、俺の記憶とは食い違いがある。
その謎があるのにも関わらず、俺は怒りを小雪に投げつけるみたいにぶつけた。
悪いのは、小雪の事情も何も知らないで自分勝手に感情をぶつけた俺だ。
コーヒーが苦いのも当たり前のことだ。俺はまだまだ子供だ。
それに、流石に言いすぎた。
昔の約束も破って小雪のことを否定した。
「はあ、何やってんだ俺は」
もう、最低な俺に苦笑いしかできない。
次会ったら、謝ろう。
許されなくてもいい。
それくらいに、俺は小雪を理不尽に傷つけた。
これは、俺のけじめとしてすることだ。
もし、もう一度チャンスをくれるのならしっかり話し合いたい。
「よし」
自分に喝を入れて、コーヒーを一気に飲み干す。
やっぱり、苦いな。
サービスのケーキもありがたく頂く。
コーヒーとケーキを食べ終えて会計を済ます。
「お騒がせしてすみませんでした」
「コーヒーとケーキ、とても美味しかったです」
謝罪と感謝を述べて店のドアを開ける。
「ガラガラ」
ドアのベルが鳴る。
「ありがとうございました」
「また、お越しくださいませ」
また、お越しください。か…
マスターの優しさに感謝して店を後にする。
迷惑でなかったら、また来店したいと思った。
"作者からのお願いです"
おもしろかった、続きが読みたいと思われた方はブックマーク、評価をお願いします。
面白くないと思われた方も面倒でしょうが評価での意思表示をお願いします。
面白くないけど最後まで読んだから、星ふたつ
頑張ってるから、星みっつ
こんな感じで大丈夫です。
どんな形でも評価をくださるとうれしいです。




