第6話 箱庭②
ここで丈二編に一度戻ります。
―——白銀の狼
透き通るような雪色に、頭から背中、尾までが銀の美しい狼が座ってこちらを窺っている。
こちらを見る目は金色で強い眼光。
一匹の狼とその目の前にいる男は、見つめあっている。
いや…眼を飛ばしあっている。
※ ※ ※ ※
「で、俺のカブ…。」
「なんすか?なんすかぁ~?」
「…まぁいいや。ところでケレースさんでしたっけ?」
「だめっすよ~!」
「まだ何も言って…はぁ。取り合えず独り言でいいから話すぞ。取り合えず俺は帰れるのだが、来るときにその条件を既に消費してしまっており帰れない状況にある。でその条件は内緒なんだけど、それを満たせば帰れる。OK?」
「OKっす。それと答えれることは答えるっすから独り言じゃない感じでいいっすよ。」
「当然〝行き来″出来るってことは、こちらの世界でも満たすことができる。そしてここは…恐らくその世界の狭間で満たす場所ではない。」
「誘導尋問っぽいっすけど、ほぼ合ってるっす。」
「そしてここからは、妄想に近いのかもしれないが。あの暗黒ふわふわは魂と言っていた。そして体は森からと言うことは、体より魂の行き来が難しい。そしてそれは、あちらとこちらに迷い込んだ全てがここに辿り着かない為の理…いや試練みたいなものか。あんな誰でも通るアンダーパスで俺が迷い込んでるんだもんな。じゃないと、それが偶然の偶然によるものであっても、かなりの数がこちらに来ることになる。」
「・・・。」
「そしてこの森。箱庭か?ここは限りなく俺のいた日本の森だった。特にヨモギは日本の在来種だし、ヤブガラシもアジアに多く生息するものだ。そこに移入分布のクレソンを見つけた時に、現実の日本か日本に模した森のどちらかと想像した。前者は暗黒ふわふわを体験したあとだから、後者であると思っている。このことから、こちらにたどり着いてしまった人に合わせた退避場、若しくはこちらの世界に入れるかどうかの試験場みたいなものではないかと思っている。」
「・・・ふっふ。」
「で、ここからなのだが。実はサバイバル生活の適性の見極めが目的ではなく他の目的があるのではないか。」
「続けて続けて」
「正直、箱庭に来てから1時間の散策までで得た食材や情報が都合がいいというか…導かれていたっていうか? 紅葉なんかも人工的な規則性があって違和感があった。だからこそ、果物を手に入れられたことで、直ぐに水辺に進む必要がないと判断したんだが。」
「ほうほう」
「そんなこったで、何かの人為的な意図の気配を感じてはいたのだが、何ていうかな~。導いてくれていたのは、もっと…普通な感じ?か気がするんですよね。」
「普通っすか?」
「そう。ケレースさんみたくハチャメチャな感じじゃないんすよ。もっと穏やかっていうか~優しいというか。ん~ケレースさんに比べれば普通?」
「うわぁひどいっすね~!あたし、地母神っすよ~!自然の恵みを育む存在っすよ~!!!優しさと穏やかさの化身っすぅ~。」
「…うん。だから、なんかごめんって思って。」
「ごめんってなんすか~~。」
「で、思ったんです。残念な地母神様は、実は優しくて。迷い子を助けるためにこの箱庭を用意してくれる存在で。導いてくれたのは別の何か。で、その何かがチュートリアルと裏試験をしている存在ではないかと。」
「ジョジさん…その落として上げる言い回しは、地母神のあたしの豊満な胸がキュンキュンっすよ。この際、残念な発言は片乳もみもみで許しちゃうっす。本当に〝たらし″っすね。」
ケレースは、黄色のシルエットの胸を張る。
「…豊満な胸。片乳もみもみって言われても。それより、どうなんでしょう?」
「おしいっす80点っす!もうちょいで合格っす。もう少し頑張って考察を続けましょう。っす。」
「何の合格点なんだよ。それに合格点高過ぎだろ…。」
「80点って言ったのは、胸へのリアクションじゃないっすよ。ジョジさんのサバイバルで頑張ってとった行動と独り言の点数っすからね。」
「独り言じゃないっすよ~とか言ってませんでしたっけ? で、80点ってことは大方予想は当たってってことでいいのですかね?」
「いやそれはそれで、正直びっくりしてるんすよ。で?」
「で、導いているのって、そこのオオカミンさんがそうなんじゃないかなと。」
「・・・。」
「えっ?」
「いや…そこの狼。」
「ふぇええ?何時から気が付いていたんすか?見えてたんですか?そこクリアしてたんすか?」
ケレースの黄色のシルエットがすご~~く驚くジェスチャーをする。驚き方がまたうざい。
「デブリハットの心地よさが異常だったんだ。今までのことを考え、そこに何かがあると思ってたんですよ。そうしたら、大木の前にケレースさんが現れ、デブリハットの中には狼が現れたから、てっきりセットでペットさんかと思ってたんですよ。それで、その狼さんが導いてくれている存在って気が付くのが試練なのかなと。」
「・・・。」
「こんぐらちゅれーしょんっす!10080点す!合格っすよ!おめ~~!」
「いや点数!!!さっきの80点の割合!何?考察全然ダメだったの?!」
「考察点は100点満点すよ。だからすごく良い線いってるんす。ただ、さっきジョジさん自分で言ったじゃないですか。試練だって。」
ケレースの目が真剣に戻る。
「あ。あぁ!」
その目を見て理解する。この狼を見つけるのは本当に難しいのだ。仮に、例えば箱庭の恵みなどから、ケレースさんを感じ見つ出すことが出来ても、狼は見つけられない試練になっており、これをクリアすることで次に行けるかどうかの線引きをしているんだ。
自分が狼を見つけられた仕組みは正直わからない。だけど、この導き手である狼を見つけてしまったため、ケレースさんは驚いたのだろう。
そして、考察での100点はそれを成し遂げるために必要なことについての採点なのだろう。導き手を見つけてこの世界に進むひとつめの試練の点数なのだ。
「理解したようっすね。」
「あぁ。」
「自分がどれだけ…おかしいのか。」
今まで以上に目に力がこもっている。怖いくらいに。
「ッ! つまり、ここは・・『笑っちゃいますよね本当。あひゃひゃひゃひゃっすよ~ぷ~くすくす』
「笑っちゃう方の可笑しさなんかい!」
「いやいや。その通りっす。何のための時間感覚のない暗黒空間なのか。今ジョジさんが考えた考察の通りっす。魂の行き来が困難な空間ってのもあるっすが、それ以上に、「この箱庭から進むため」には、本来は、何年…。いや、それこそ10年以上ここを抜け出せず…って人が殆どっす。だから暗黒で時間感覚にストレスを与え耐性を先に与えるんす。」
「続いて話すっすけど、ジョジさんは、服も荷物も意識して初めて気が付いたんじゃないっすか? それも、あたし達がジョジさんの特性に合わせたアイテムを具現化して長期サバイバルが出来るようにしたものなんすよ。そこまでしても、殆んどの人は生きることで精一杯で、この箱庭で生涯を過ごして終わるんすけどねぇ。」
「あぁ…理解したよ。それを1日でクリアするってことが、どういう事かってことは。」
「そういうことっす。あと…まぁ。それだけでもないんすよ。」
少し考え込むような表情をし俯きケレースは言う。
「そう。それだけじゃ…。ジョジさんにはこれが狼に見えているんすね。この狼は風のアネモイの内、南風のノトス。上位の風の聖霊っすね。こいつがジョジさんのことを気に入っちゃったみたいなんすよ。」
「その狼が聖霊?精霊ではなく聖霊ってことは御神体様なんですか?」
「そっす。この本体のノトスは神体なんすけど、分体眷属をジョジさんと一緒に連れて行って欲しいって言ってるんすよね?こんなことは初めてで困惑してるっす。どうするっすかねぇ?」
「・・・。」
暗闇の中の白銀の光と、ここに来てからの風の導きには何か意思がのようなものがあるのは気が付いていた。そして常に自分が適切に判断が出来るように落ち着かせてくれていたのは、その導きであった。
流れがとんとん拍子に進んでいるが、元の世界に戻れる可能性がある以上、この世界に進む進まないの選択肢はもうない。
であるならば、一緒に一歩を踏み出すものがいるなら心強いし、何よりこの風に好意を抱いている。
「それが、どのような意味を持つのかはわからないですが、出来れば俺も一緒に行きたい。暗闇やこの箱庭で助けられた恩も返したいですし。」
「ん~~~。わかったす。なら眷属契約をしてみるっすか?」
「眷属契約?」
「簡単っす。にらめっこしてお互いのパスを繋げて、眷属になって!いいよ!みたいな感じっす。」
「わかりやすいけど、そんな簡単なものなのか?」
「分体の思いと今のジョジさんの決意があるなら、多分楽勝っすよ!時間はどれだけ掛かるか知らないっすけど睨めっこするだけっすから! 契約が終わるまで、食事と水はサービスするっす。」
「サービスって!なんか前半のサバイバルの件…あれは一体何なんだったんだろうな!!!特に決死の食事や水辺考察の件。」
「あれはあれで大事っす。今はそれをジョジさんはクリアしただけのことっす。」
「はぁ…いろいろ怖いが、『何事も恐れない。それが人生の大切な教訓だ。』だな。」
「そうっすよ~!その意気でまずは眷属契約を頑張るっす。考察の続きは契約出来たら聞いてあげてもいいっす。」
「・・・。」
[何事も恐れない。それが人生の大切な教訓だ:フランク・シナトラ]
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