[若月編] コールマンからのクエスト②
週末なので後ほどもう一本投稿予定です。
若月編
コールマンからの依頼の目的地は、南門から街道を通り川沿いに出たらそのまま進めば着くようで、目印になる物はなく、コールマンや教えてくれた人にしか場所が分からない感じだそうで、まるで海の漢の秘密の漁場みたいですねと若月は鼻を荒くする。
彼女は、職人や漁師のように、経験により知りえた一子相伝の技術みたいなことに人一倍憧れを持っていた。それは、自分の生まれも起因しているのであろうが。
コールマンの職人気質に惹かれたのも、母方の祖父が鍛冶師であったのもことも要因のひとつだが、異国のコインに含まれる成分に惹かれて「値段以上の値段をつけた」技術を目の当たりにしたことも大きい。
冒険者組合を出て、一度支度をして南門に集合となったため、一応買っておけと言われたポーションを数個買っておいた。それ以外は、新調した採取用バックに解体用のナイフ程度の所持品である。
南門で馬車に乗ったコールマンと合流を果たした若月は、門番のトーマスに挨拶をし南への街道を進む。
馬車の荷台に乗り、魔物が出たら直ぐに対応が出来るよう若月は辺りに目線を配る。
街道が川沿いに出るまで、特に何事もないまま順調に進めていたが、川沿いに入って直ぐの所でゴブリンの一段と遭遇する。馬車で走り抜けることは容易いだそうだが、受注した依頼のひとつがゴブリンの討伐なんだろ?依頼達成して来いよと、コールマンから言われる。
「嬢ちゃんの初仕事だなぁ。俺はここで高みの見物をさせてもらうぜぇ。まぁゴブリンだサクッとやっちまって来い。」
「はい!」
冒険者として初の対峙だ。迎えるのは最弱なれど人型の多勢。
コールマンから借受けた剣を抜き、剣士スキル「落葉の足取り」を使う。
ゴブリン達も人間の女性を目当てに「ウキャキャ」と若月を見て涎を垂らし発情したかのように嫌らしく笑う。
魔物たちは若月を囲み戦う気満々のようだ。
なら敢てそれに乗ってみようとワザと囲まれる。
「おいおい…マジか…。」
コールマンは苦笑いをする。
数は8。
若月は中段の太刀を位置で構え間合いを取り、前面のゴブリンにじりじりと近づく。
そのプレッシャーに負けたのか前面の2匹が飛び掛かる。
ゴブリンの短刀を落ち葉のようにひらりとかわし、後の線―。スゥ~と剣を横にひくと2匹の胴が真っ二つに割れる。
その流れで左右3匹を斬り、同じく中段の太刀位置で剣先を後方3匹に向ける。
と、同時に若月は一歩踏み出し左のゴブリンの喉元を突き、そのまま剣を右に旋回すると残った2匹の顔半分が崩れ落ちた。
一連の流れで約30秒程であろうか。
剣士のスキル「落葉の足取り」は、力みのないステップで相手の攻撃を見切りかわす技で、通常の剣士であれば一つの回避力向上程度のスキルであったが、彼女の剣術と相性が良いことから「箱庭」で身に着けた彼女にとって奥義にも等しい技となっていた。
「…すっげぇなおい。まるで踊りのようだったぜ?驚いた。」
あちらの世界なら「舞」と称されたことなのだろうか。コールマンが目を丸くしてそう兪やする。
ゴブリンの討伐は5であり、耳の先を削り持ち帰る。解体用ナイフを取り出しコールマンに教わった個所を切断しバックに入れる。
あの暗闇と箱庭の修練によるものだろうか。
人型の生き物を斬る…殺すことに武者震いはあっても躊躇はない自分がいる。
この世界でも変わらないでいられた。
これがあの試練によるものなら、この命のやり取りが普通のこの世界では、ありがたいことだと彼女は考える。それは、元の世界では逸脱している考えなのだが、彼女がそれに気が付くことさえ、もうないのかも知れない。
汚れた手と剣に付いた残り血を拭いた布を川で洗い馬車にもどる。
いずれにせよ、彼女の初依頼達成は、魔物と対峙して秒単位で幕を降ろしたのであった。
※ ※ ※ ※
ゴブリンとの遭遇から5分程走ったあたりで、コールマンは左の草原に馬車の舵を切る。
そこから少し行った岩山の陰に馬車を止める。恐らくこの辺りが採掘場なのだろう。
採掘道具を持ちコールマンが若月に指示を出す。
「いいか。俺は今から石を拾い見極める作業を繰り返す。前に見せたあの鑑定だ。作業効率のため俺はその間無防備になると思う。その背中を守ってほしい。ここの鉱石が多めに必要な依頼を受けてるんでな数をこなしたい。頼んだぜえ?」
「はい。わかりました。」
真剣な目で若月が答える。
「よし。ここは頻繁にコモンウルフが出没するエリアだ。またゴブリンが通りがかることもまぁまぁある。それらに気を付けて貰えば大丈夫だ。後ひとつ、コモンウルフは美味いので持って帰りたい。最初に仕留めたら俺に声をかけてくれ。処理の仕方を教える。」
そう言うとコールマンは、早速、鑑定を始めていく。
拳台の石を手に持ち目を光らせては、捨てるか袋に入れるかの作業を繰り返していくコールマンを守るように辺りに気を配るもどうやら彼もそれなりに警戒をしているようだと気が付く。
そして、1時間程経ったとき。
――数匹の獣が走ってくるような音がする。
狙っているのは馬車の馬だろうか。
そちらに向かっているよう思えた若月はコールマンと馬車の間から少し前に陣取り鞘に剣をおさめ居合の構えを取るり、スキル落葉の足取りを発動させる。
足音から察するに数は3。
近づく足音は一斉に馬に飛び掛かる。その姿が草むらから現れた瞬間に横一線に剣を引く。
一瞬の居合でコモンウルフ3匹が落ちる。
息のあるコモンウルフに止めを刺し、鑑定の合間を見てコールマンに声をかける。
コールマンから首を先に切り落とし血抜きをしながら、討伐確認部位である牙を抜くよう言われそう処理をする。
岩に逆さに掛けた狼から血が出なくなったら馬車に入れ、また待機をする。
移動しながら、その作業を3度こなしたときに、コールマンの鑑定作業が終わる。
「ふう。こんなもんで良いだろ。ちぃと数が減ってきたな。このポイントもそろそろ終わりかね。嬢ちゃんありがとよ。お陰で捗った。」
「いえいえ~。お役に立てていたのなら嬉しいですけど。」
「ん?護衛だから俺が傷ひとつなく採取を終わらせた時点で100点だろ?」
「そうなんですけど、狼さんは統率が取れていて馬さんを狙ってくれたから対応し易かったのですが、これが分散されて馬さんとコールマンさんと狙いが分かれた場合は、少し大変だったかなと思って。」
「ふむ。…まっいいんじゃないか?」
コールマンは少し苦笑いをする。
「後は雑薬草だな。それは街道沿いに戻れば直ぐに見つかるだろう。」
※ ※ ※ ※
街道に戻り草原で草むしり。若月のこの依頼のイメージはこれであった。
雑草と雑薬草の見分けがつかなかったのである。見かねたコールマンが一束摘み若月に渡す。
「嬢ちゃんは…こっちの知識が乏しいのかな?これが目的の草だ。ほれ。これを見ながら探してみろ。ポイントは茎の部分のこの赤紫だ。」
ああ。これならと葉を持ち上げ茎を確認し、葉の形状を見て雑薬草と判断する。
この知識がない彼女にとってゼロはゼロであって分からないものは分からない。
しかし、雑薬草がこれと分かれば、それを見つけることは出来る。
きっと彼女に必要なのはこの世界の師匠なのだろう。
今日の師匠はコールマンであった。そしてコールマンは依頼主であり、常に冒険者として苦楽を共にする仲間ではない。そのことに彼女は気が付く。
恐らくコールマンは、彼女の世話を焼くうちにそれを感じ取っていた。恐らく彼女が『迷い人』であるのであろうと気が付いていた。だから、彼女に仕事を依頼してその点の危うさを彼女に感じて貰いたかった。
だから伝える。
「嬢ちゃんは強い。多分同レベルの冒険者と比べても場数や度胸も技も一流なんだと思うぜ。でもよぉ、この仕事を一人で続けるにはちぃーと危ういよなぁ。自分でも今日体験できたんじゃないか?」
「…そうですねぇ。戦うという点では正直不安はないです。ですが、やはり分からないことが多くて、今日もコールマンさんが教えてくれて初めて依頼が形になったのが否めません。正に『インプットがないのに、アウトプットは出来ない』ことを思い知った気がします。」
「インなんとかってのは分からないが…。実際は、成り立て冒険者なんてのは失敗して成長を繰り返すもんで、これは当たり前のことだとも俺は思うんだが、嬢ちゃんは多分…。」
コールマンは一度声を詰まらす。
「多分、多くのことを苦もなくこなせてしまうんだろうなぁ。でも人なんてなぁ何処かで躓くもんだからよぉ…嬢ちゃんはその時がチョット怖いなぁと思ったんだ。」
正直その点は自分でも自覚していた若月は、コールマンのその気遣いに感謝する。
「ありがとうございます。わかりました。依頼を通して良いギルドを探して師匠を見つけろって教えてくれたんですよね。」
「まっ。そういうことだな。要はリリア嬢ちゃんにゆっくり相談をして、間違いないギルドを見つけろってことだ。」
今日の依頼。それは、コールマンのお節介からたまたま拾ってしまった彼女への責任、また同じような娘を持つ父親の親心。その関わりの時間は1日と短くも、自立の道を歩みだし職を得た彼女に対する、コールマンからの選別であったのだろう。
兎にも角にも、すべての依頼をこなせた彼女は冒険者組合に報告をするため、彼女の今日の師匠と共にフィルムの街に帰っていくのであった。
[インプットがないのに、アウトプットは出来ない:手塚治虫]
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