[若月編] 飽くなき欲求(お風呂)
若月編
若月編
「お父さん。お母さん。たっだいまー。今日も疲れたぁー。」
暫くして、ドワーフ風の女の子が元気一杯に帰ってくる。
体格は幼児体系なのだが、顔はヒビキさんに似たのだろうか、グレイ系の髪に、凛とした美しさがある。
「おう。おかえりくるる。この嬢ちゃんは俺の客で若月だ。明日から宿を使ってくれるお客さんでもあるから、仲良くしてやってくれ。」
「ふぇええ。可愛い人やねぇ。私はくるる。」
太陽のような笑顔で若月に自己紹介をするくるるに、若月も満面の笑顔で答える。
「はじめましてくるるさん。宮村…ワカツキ・ミヤムラです。若月と呼んでください。」
「若…月。お母さんみたいな名前だねぇ。了解~よろしくね若月。あと私のことはくるるでいいよー。」
やはり、若月がノスタルジックに感じる名前の響きは、こちら側では珍しいのだろう。
「はい。よろしくしてくださいね。くるる。」
この世界で最初の歳が近い友達ができそうで嬉しい。
「くるる。明日の午前中なんだけどよぉ。嬢ちゃんに街を案内してやってくれよ。午後からは俺の仕事を手伝ってもらうから昼飯までに帰ってきてくれ。」
コールマンがくるるに明日のことをお願いしてくれる。
「明日ならいいよー。行きたいところもあったし。」
くるるは、笑顔で快諾してくれた。
※ ※ ※ ※
夕食には、クラスタシアンというヤドカリモンスターを使っていた。
モンスターも食材となり、このヤドカリも近くの海で取れる特産品のひとつらしい。
ヒビキが作ってくれた晩御飯は、そのヤドカリを、昼のシチューに入れ、敷き詰めた野菜に掛けて、オーブンで焼いたグラタンに近い料理〝キャセロール”で、これがまた美味い。
香草とバターを塗りカリッと焼いたパンとも相性がばっちりで、遠慮なく2杯目を平らげる。
くるるも大好物らしくお代わりをする。
和やかな家族でのディナーの団欒を久しぶりに満喫をする。
「本当にお母さんのキャセロールは絶品だわぁ。そういえば、若月は冒険者に明日なるんだよねー?職業は何なの?」
「元々剣術の家で育ったので剣術が得意なのです。それで剣を扱ったお仕事が向いていると教えて頂き剣士にしました。」
「ふ~ん、剣術の家系で育っても、不向きな能力値で生まれることなんてまぁまぁあるのに、家柄ってだけで向いていない職業に就いちゃう子が最近多くてねー。若月は適正職業の神託は受けて剣士になったみたいだからOKね。私は聖堂で働いているんだぁー。だから気になっちゃって。ごめんね。」
(そういえば、こちらでは聖堂で適正な職業が確認できるのでしたねぇ。)
「え?聖堂がなんて?」
声が漏れていたらしい。
「いえ。そうなんですよ。これで料理人が向いているだったらどうしようかと。私何も作れないから~ははは~。」
「ははは、普通女の子はそっちを望むものだけどねぇー。」
お茶を飲み終わったところで、ヒビキが宿とパブの仕事に戻るらしいので、若月もそのまま宿に移ることとした。
明日の約束を改めて確認し、防具一式を装備しコールマン家を後にする。
宿に入ると同時に居ても立ってもいられない若月はヒビキに言う
「ヒ…ヒ…ヒビキさん。お風呂、お風呂をお願いします!!!」
「ふふふ。本当に楽しみにしているのですねぇ。石鹸と香油はありですよね。後、布を一枚プレゼントしますので、それで体を拭くなりしてくださいな。」
「ありがとうございます~~~。」
部屋にも戻らずお風呂場に案内される。
少し高床になっている木造の小さな部屋にすのこが敷いてある。そこで、桶に入ったお湯を使い体を洗うらしい。
使った水はすのこを落ちてそのまま地面へ。そんな仕組みらしい。
風呂の前室には荷物置き場があり、内から貫木をかけれるため、一応防犯上安心な設計になっている。
アロが大きめの桶で湯を運び入れてくれ、小さな石鹸と器に入った香油を渡してくれる。
欲を言うと湯船に入りたいのだが、今は石鹸で体を洗え、香油で髪の手入れが出来るだけで大満足だ。
アロにお礼を言うと、若月は速攻で装備と服を脱ぎ捨て風呂場に突撃をするのであった。
※ ※ ※ ※
「はぁ~幸せです~。」
暖かいお湯を掛け石鹸の泡を落とす。
「この匂いは何のハーブでしょうか。いい香りですねぇ」
ヒビキの石鹸は泡立ちもよく、ハーブのような香りがしてとても気に入った。
正直、この世界の石鹸には期待していなかっただけに感動である。
香油はラベンダーに似た匂いが付いており最高に落ち着く。
若月の栗色セミロングの髪は、自分で思っているよりは傷んでいなかったが、女子としては毎日でもケアしたい。香油の触り心地もサラ~としており、髪に馴染む感じを受ける。
「香油が髪に馴染むのがわかります~。髪が生き返る~。そしてこのラベンダーの匂い~。たまりません。」
気温も寒くないため、20分程度髪に香油を馴染ませ湯で流した。
最後に残った湯を全身に掛け「ぷはぁ~~」とおっさんのような感嘆の声を上げ浴場を出る。
服と装備を着込みながら、たった今大満足をしたにも関わらず
「この季節ならいいですけど、冬の季節は来るのでしょうか?来るなら少し考えものですね。」
と、浴室の改善点を考える。
部屋に戻り、装備を見る。剣だけは明日はコールマンから借りるので今はないが、それ以外は揃った。
そして明日はついに冒険者になる。
剣士として自分の剣で生きていくのだ。
「沢山稼いで私がここのお風呂を改善するのです~(メラメラ)」
恐らく、風呂に対する飽くなき欲求を満たすためには、今後とも、努力を怠らない若月なのであろう。
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