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~豪華客船2~

どんどん月が傾いて、夜になった。

部屋から見える窓は、青に黒色が混ざった色に染まってる。

海との境界線が見えないや。

「京真さま……ほんとうにお願いです」

「いやだ」

「私を床で寝させてくださいー!」

「いやだっつってんだろ!」

ゆっくりと動く船の、その一つの部屋は、毛布のとりあいで騒がしかった。

「これを渡したらおまえは床で寝るんだろ!?」

私はばっと後ろをふりかえって、彼をみた。

「じゃあ、」

「ソファもなしっ!」

どうしよう、そうなったら……。

「わかりました、ドアの外で寝ます」

「水響っ!!」

彼に肩をおされ、ボスッとベッドに押し倒された。

「へっ…」

「俺と、一緒に、寝るの。わかった?」

至近距離の彼の目に見つめられ、口をパクパクさせたまま、目をそらすことしかできなかった。


「水響、デッキにでてみないか?」

時計をみると、午後22時をまわっていた。

「いいですよ。なにもみえないですけど、夜風にあたるのですか?」

「わかってないなー、水響は」

ニヤリと笑う彼のあとに続いて、外へと出た。

あたりはまっくらで、すっごく遠くに街の明かりが見える。

下をのぞいてみても、吸い込まれそうな暗闇があるだけだ。

「ほら水響、上!」

彼が指さす方を向くと、

「わあー…!」

満点の、星…!

キラキラと輝く砂粒を夜空にちりばめたかのような、目がチカリとする星々だ。

「都心にいたら、なかなかこんな星みられないからなー」

宝物をみつけたかのようにキラキラと笑う京真さま。

私にとっては、あなたの笑顔のほうがーー。

「おらあっ!」

そのとき、背後から、闇からうまれたみたいに男がとびでてきた。

その男の右手には、ナイフーー!?

反射で、彼のナイフをけりとばし、ダンッとデッキにたたきつけた。

「くそっ…!……ん?おまえまさか、ナツネさん…?」

「え?」

なんで私の、裏の名前をーー。

「うわっ!?」

京真さまの声がしたほうをふりかえると、もう一人いた男が、包丁をふりかぶっているところだった。

「京真さまっ!!」

あわてて彼のほうへ走るけれど、京真さまがそれをよけたときに、態勢悪く、外へと身を投げ出した。

「うわあーっ!」

「京真さまあっ!」

暗闇へとすいこまれた彼のあとを、てすりをけって追う。

ドボンッと大きな水柱をたてて、海にとびこんだ。

「ははっ。おいセリ、あいつ自分から飛び込んだぜ。まあ、ターゲットは貴堂京真だったから、死ぬのが一人増えても変わんねえか」

「おい、さっき飛び込んだ人、たぶんナツネさんだ」

「はっ?ナツネさんって、あの四大殺し屋のうちのひとりのか?」

「まちがいねえよ。なんでこんなとこにいんだ…?」

「もしかしたらナツネさんも、俺らと一緒で、あの人に貴堂京真と浦神香穂を殺すように命令されたのかな?」

「もしそうだとしたら、俺たちみたいなんじゃなく、ナツネさん一人だけで十分だろ」


暗いなあ。静かだ。体が重い。

とびこんで最初に思ったのは、目の前に広がる暗闇への感情。

すぐ下をみると、目をぎゅっとつぶり、口をとざした京真さま。

足をおもいきり動かして、彼へと手をのばす。

冷たい水の中で触れた手は、あたたかかった。

はしっと手をつかむと、彼はゆっくりと目をあける。

そして安心したように、笑ったんだ。

私は、その笑顔にほうけてしまった。

そのとき、彼の口の中から空気がでてきたから、あわてて水上へとあがる。

「ぷはっ。京真さま、大丈夫ですか?お怪我はっ?」

「必死でよけたから、けがはない。けど船から落ちちゃったな。ごめん水響」

「あなたさまが無事だったのならなによりです。あそこのはしごからあがりましょう」

彼の手をつかんだまま、船へと近づく。

初めてこの船に入ったときにつかめなかった手は、もう離さないから。

私はさっきまで男たちがいたデッキに目を走らせ、にらみあげた。


「服がびしゃびしゃですねえ…」

「だな…このままじゃかぜひいちまうな」

あいにくタオルとかは持ってきていなかったから、私たちは中途半端なたいせいでデッキをうろうろ。

あがってきたときには、男たちは退散していた。

死んだと思ったのだろうか。

冬の海じゃないんだし、つめが甘いなあ。

「服びちゃびちゃのまま部屋に戻るわけにもいかないしな」

「あ、そこらへんにいる人から服をとればいいのでは?」

「水響、なんてこと言うんだよ…!」

「冗談ですよ冗談」

そのとき、入り口のドアがガチャリとあく音がした。

なんとなくきまずくて、私たちはすぐに隠れて壁の後ろへと移動した。

入ってきたのは、警察官の服をきた男性と、スーツをきた男性だ。

「加藤、今日の潜入捜査の件、ごくろうだった。なにか決定的な証拠はつかめたか?」

「監視カメラは設置しているのですが、とくに不審な動きは……」

「個人的なパーティーでは尻尾をだすかと思ったが、難しいか……部屋に押し入るわけにもいかないしな」

「そういえばですが、この船にあの貴堂社長の息子さんも招待されているそうですよ」

「そういえば、部下たちがみかけたとうわさしていたな。あの、海外をとびまわってる社長夫妻だろ?」

「かわいそうですよねえ。小さいころから親に面倒みてもらえないのって。大きな会社がパーティーに参加するとき、現社長じゃなくて息子だけがくるのなんてなかなかないですもんね」

「そういうな。金持ちには金持ちで、俺らにはわからねえ悩みがあるだろ」

隣をみると、京真さまはじっと、ただじっと床をみつめていた。

何も感じていないような、感情がない瞳。

だけど感じないんじゃなくて、感じないようにしているのでは、と思った。

そんなことを思ったからか、気づけば主人の許諾なく、彼らの前にたちはだかっていた。

「うわ、びっくりした。お嬢ちゃん、そのかっこうはどうしたんだ?」

「びしょぬれですね」

私のからだを見ながら口角をあげた彼らの背後にまわり、両手で首をうった。

こんな子供が、すばやい動きをできると思っていた彼らは、すぐにどさりと床にたおれた。

「みっ、水響!?なにやってんだよっ!?」

「すみません。黙っていられませんでした」

「俺はあんなの言われ慣れてるんだから、別にいいんだよ。ていうか、この人たち偉い人みたいだけど、どうしよう…」

「別に大丈夫ではないですか?私がやったという証拠もありませんし。それに、ちょうど着る服がみつかりましたよ」

しゃがんだまま彼を見上げると、苦しそうに顔を歪めた。

「そこまでする必要ないのに……。なんか今日の水響、ぶっとんだ行動ばっかりしてないか?」

それから京真さまはおかしそうにくすっと笑ってくれた。

さあ、ととぼけてみせる。

「あなたが、私にとって大切な人、だからですかね」

えっと京真さまの動きが固まった。

それから、ぶわわっと顔に熱が集まる。

「さあ、さっさと着てしまいましょう。他の人が来るかもしれない」

なかったことにして、彼から目を背けた。

なぜか心臓がバクバクする。

なにか重大なことを言ったあとのような感覚だ。

そのあとも彼は、無言でもくもくと手を動かしていた。


「…さすがにこれはばれないか?」

警官の帽子に手を添えて、彼は苦笑い。

「京真さまは身長が高いんですから大丈夫ですよ。私こそばれないか心配です」

一応別人のふりをするために、髪形を変えて、今はポニーテールだ。

そして慣れないスーツ。ネクタイは京真さまに結んでもらった。

「その、水響、ポニテにあってる」

口元に手を添えたまま、ぼそりと告げられた。

「?ありがとうございます。あなたさまも、にあっていますね、警官服」

「憧れはあったんだよな、警官。まあ、これは他人からはぎとった服だけど」

二人でくすくすと笑い合った。

ああ、この人の隣は落ち着くなあ。

どんどん自分が、無敵になれるきがする。

私、あなたと一緒にいると、強くなれるんです。


部屋へと帰っている途中、背後からの気配に気づいて、ばっと後ろへ下がった。

刃物をもったまま臨戦態勢に入っているのは、さっき襲ってきた男性二人組!

「くそっ。またきづかれた!」

「あの、あなたはナツネさんですよね?ここは手をくみませんか?」

「はあ?何のことを言っているの?」

意味が分からなくて、思わず聞き返した。

「あなたも、そこにいる貴堂京真を殺せという命令を承ったんですよね?」

京真さまを、殺せ……!?そんな命令が、誰かによって下されていたの…!?

彼を狙おうとする野蛮な愚者たちはたくさんいるけれど、今回は誰かが、命令している…?

今日の異常なほどの襲撃の数を思い出す。

それは京真さまだけではなく、香穂さんのほうも。

「まあ今は、先に貴堂京真を殺す方を優先しよう」

突進してきた二人組に向かって、私はおもいきり顔面へ拳をふるうーー!

そのとき、バアンッと大きな爆発音が響いた。

「なっ、何!?」

廊下の端から、白い煙がたちのぼってきた。

すると彼らは、私たちの存在なんてなかったかのように、煙のほうへと走っていく。

「はあ!?なんだあいつら!?」

追いかけようとする彼の手を、ぱしっとつかむ。

「行ってはいけません。あんなにも大きな音がしたのに、報知器が鳴らないのはおかしい。きっとそれすらも故障したのかもしれません。ここはまず部屋に戻り、待機しましょう」

「きゃあーっ!」

遠くで、女性の悲鳴がきこえた。

「誰かが叫んでる。あいつらになんかされたのかも!」

「京真さまっ!」

なんであなたは、自分の安全よりも、他人のことをきにかけるの。

「ナツネさん!」

反対側から、花鳥が走ってきた。

「柳田さんが呼んでます。至急、こちらへ来るようにと」

なんでこんなときにーー!

「来なければ、君の大切な人がどうなるかわからないよ、と言ってました」

思わず、ばっと京真さまをふりかえった。

腕をつかんだまま、私たちはそれぞれ行きたい方向に体を向けている。

私たちの進む道は、真逆だ。

「水響。大丈夫、さっきの女の人をみつけたら、すぐに部屋に帰るから。ちょっと廊下を歩くだけだよ」

へらりと笑う彼の笑顔をみつめてーー私はするりと、彼の手を離した。

「……どうかご無事で。必ず、無事でいてください」

「わかった。水響もな」

私たちは目線をかわして、すぐに廊下を走った。

私が手を離したことを後悔するなんて、このときは思ってもいなかった。


「あれ?誰もいない…」

煙を手で払うけれど、あたりには誰もいない。

女の人は無事なのだろうか。

角まで歩いてくると、大きな扉の前まできた。

ここは大人たちがダンスをしたりビュッフェを食べたりした大広間だ。

扉をゆっくりとあける。

あんなにもにぎやかできらびやかだったホールは静かで、暗闇に包まれていた。

「誰もいないよな……」

扉をしめようとした瞬間、ドンッと体に衝撃が走った。


「で、何の用ですか柳田さん」

彼の部屋へ向かうと、その男はにたりと笑みを浮かべていた。

「きみ、京真くんは?」

「ひとりです。はやく戻りたいので、手短に」

どうしよう。京真さま、ちゃんと部屋に帰れたかな。危ない目にあってないかな。

私の心の声がだだもれだったのか、ハハッと目をおさえて、笑いだしてしまった。

「いやー、ごめんね。これは犯人をおびきだすための罠なんだよ」

「犯人?罠?」

不穏な単語に耳を疑う。

そ、と人差し指をたてて男は笑った。

「この豪華客船の中には、悪事ばかり働いていた悪い人物が潜んでる。だけどそいつはずるがしこくてね。証拠がまあみつからない。だけど犯人を弱い立場に追い込める唯一の局面。それは、現行犯逮捕」

話がみえてこない。だけど、さっきから悪寒と嫌な予感はする。

「その犯人のターゲットは浦神香穂と貴堂京真。かれはもともと標的じゃなかったっぽいけど?てなわけで今、京真くんには頑張ってもらってるんだ」

京真さまがターゲット。彼は今一人。急に起こった爆発。襲ってきた二人組は、今どこにいる?

すべてのピースがつながったきがした。

いま目の前にいる男を恨む余裕なんてない。

一刻でも早く、京真さまのもとへ向かいたかった。

「ナツネさんっ!」

花鳥の声も、柳田さんの笑い声もふりはらって、もと来た道を全速力で走り抜けた。


                                     つづく



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