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〜豪華客船1〜

「「豪華客船?」」

土曜日の午後、とつぜん貴堂家に来客があらわれた。

「はい!俺の姉ちゃんの彼氏さんの家がすげえ金持ちらしくて、今度でっかいパーティーをひらくらしいんすよ!姉ちゃんからせっかくなら、何人か招待しなさいって言われたんで……」

ラフなパーカーを着て豪華客船への招待状を持ってくる光景は、なかなかシュールだ。

そう、今回の来客は、久しぶりに姿を見たフウゲツだった。

「ほんとに参加していいのかな?」

「大丈夫っす!貴堂さんなら貴堂家のご子息ですし、ナツネさんはメイドですし。他にも、白雪さんと伊舞希さんにも招待状を送りました。俺、自分が世話になった人たちを招待したいな、と思って……」

招待状から、最後の方はゴニョゴニョ濁すフウゲツへと視線を変えた。

「ありがとうフウゲツ。でも私、殺し屋は引退したから、もうナツネと呼ばれる資格はないんだけど?」

「うっ」

「俺も、いつまでも貴堂さん呼びはそっけなくて寂しいんだけど?」

「ううっ」

年下のフウゲツがオロオロする姿は、なんだかいかにも中学生みたいで、京真さまと腕組みをして彼をのぞきこんだ。

「きっ、来てください、水響さん、京真さんっ!」

「「よく言えました」」

「なんか二人、雰囲気似てきてません?」

思わず、三人でドッと笑ってしまった。


そして1ヶ月後の土曜日。

今日は豪華客船で一泊二日する予定だ。

一度花鳥のお姉さんと彼氏さんにも挨拶をしておかなければならない。

二人で、中へと入る列へと並ぶ。

「いやーしかし、豪華客船に乗るのは久しぶりだな」

「私乗ったことありません」

「中はすごいぞ!広いしきれいだし、ごはんも美味しくて窓からの眺めは絶景!テラスにも行ってみないか?」

「はい、お供します。そういえば、今回のことはご両親には……」

「一応伝えたよ。花鳥くんにもきいてみたら、まさかお姉さんの彼氏さんがホテル王の社長の息子だったとのは驚きだったけど」

「そうなんですか!お礼を言わないといけませんね」

正装のスーツ姿の京真さまは幾度かみているはずなのに、毎回みとれてしまうなぁ、なんてぼんやり考えていると。

「お、ナツネちゃん、京真くん!」

怪しいグラサンが目立つ男性の姿が視界に入った。その人物たちはこちらへと歩いてくる。

「こんにちは。お二人も招待されたんですよね」

「ああ、そうやで!俺らはいつも和服やから、正装はこれでいっかなーってな!じゃあ並ぼか、白雪ちゃん」

「ええ。じゃあまたあとでね、水響ちゃん、貴堂さん」

「はい!」


中へ入ると、大きなシャンデリアが天井を彩る、大きなホールへと招待された。

そこには多くの食べ物やジュースなどが置かれており、同じく招待された人たちは、時間になるまでダンスを踊ったり談笑したり。

「すっごい人だな!水響、手!」

人混みを抜けていこうとする彼が、ぱっと手をさしだしてくれる。

伸ばしかけようとした手を、すばやくひっこめた。

「わ、たしはメイドですので。後ろをついていきますので、ご心配なく」

「そっか」

スタスタと歩いていく彼の後を、一生懸命追いかけた。

京真さま、なんて思ったかな。せっかく手をさしのべてくれたのに。

彼の背中をずっと、見つめることしかできなかった。


「みなさん、ようこそお越しくださいました!今日はお披露目をするということで、私の息子の怜央と、その未来の花嫁、香穂さんからもお話をしてもらいます」

そこでスポットライトをあびて人がでてくると、会場が大きな拍手に包まれた。

キチッとしたスーツを着た男性の隣に、長い髪を巻いているかわいらしい女性が立って、スピーチを始めた。

拍手をする京真さまを、横目で盗み見る。

いつか京真さまの隣で、誰よりも近くで、この人を支える人があらわれるんだろうな。

そこに私の出る幕は、ないんだろうな。

そう思ったら、胸がズキッと傷んだ。

息が苦しくなって、服をキュッと握る。

これは、どういう気持ちーー?


スピーチが終わったあと、花鳥とお姉さん、彼氏さんが話しているのを見かけた。

京真さまと二人で、お辞儀をしてお礼を伝える。

「今日はお招きいただき、ありがとうございました」

「いえいえとんでもない。花鳥くんから話は聞いていますよ。あなたは、貴堂家のご子息ですよね?」

「はい、貴堂京真です。初めまして」

京真さまと怜央さまが握手をかわし、その場を離れた。

「水響、あの人たちが怜央さんの両親だ」

京真さまが向かった先には、50代後半ぐらいの男性と、30代ぐらいの女性の姿があった。

お話を聞いていると、歳は離れていてもお互いを想い合っていることがわかった。

「わたくしは怜央とは血はつながっていないのですが、怜央のことはとても誇らしく思っています。もちろん香穂さんのことも」

真っ赤なドレスを来た奥さんの茉莉花さまの肌は、衰えを知らないかのようにきれいだった。

「よし、これで挨拶は終わったな。招待された部屋に行くか!」

「はい」

そこでピタッと動きが固まった。

「……もちろん部屋は二つですよね?」

「え、かいてあった部屋の番号は一つだけど」

静かな沈黙がおりた。

くるりと後ろを向き、花鳥のもとへと向かおうとすると、ガシッと腕をつかまれた。

「おい水響。今さら部屋をとることなんてできねえよ。定員が決まってるんだからな」

ゆっくりと振り向けば、彼はニコッといい笑顔で笑ったのだった。


なぜだか今日は京真さまと一緒にいると変なのに、同じ部屋で寝るだなんて……!

同じ家には住んでいるというものの、部屋だって起きる時間だってぜんぜん別なのに!

私にはハードルが高すぎる!

そう思いながら部屋へと歩いていると、通りかかった部屋の中から、かすかに女性の叫び声が聞こえた。

「京真さまっ!」

小声で彼を呼ぶと、彼は不思議そうな顔をしながらも、その部屋のドアに耳をつけた。

私も彼と一緒に聞くと、虫がいたとか、何かを落としたとかみたいな、軽い悲鳴ではなく、なにかに怯えているような声だった。

この部屋はICカードをかざすと部屋が開く仕様のドアだ。

いったん中に入ると、内側からしかドアは開けられない。

フロントに行ってスペアのカードを借りることはできるけど、時間がない!

「すみませんっ!京真さま、二人で体当たりしましょう!」

「わかった!」

次の瞬間、二人でドンッと体当たりをして飛び込んだ。

おもいきり当たったおかげか、すぐにドアはふきとんだ。

体制をたてなおし、部屋の中をみると、香穂さんが二人の男性に囲まれていた。

「なっ、なんだおまえら!?」

その男性が持っているのは、ナイフ!

すぐさまそれを蹴り上げて、顔をつぶしてから今度はみぞおち、そして壁にたたきつけた。

「ぐはぁっ!?」

「うっ……」

男たちの動きが固まったのを確認してから、香穂さんの足元にしゃがみこんだ。

「大丈夫ですか?どこかお怪我は?」

「だ、大丈夫です。従業員だっていうから、部屋をあけたら、急にズカズカ入ってきて、こ、殺されそうになってっ……」

恐怖に震える香穂さんを、そっと抱きしめた。

でも私の表情はほとんど動かないから、香穂さんを心配させてしまうかもしれない。

「大丈夫てすよ。水響は、すごく強いんです。この人たちはいったん、警察に引き渡すので、今度はもう誰もこの部屋に入れないでくださいね」

「はいっ……」

ふわりと笑った京真さまの笑顔で安心したのか、香穂さんの顔にも笑みが浮かんだ。

やっぱり、笑えない人間って、必要とされないんだな。

香穂さんを落ち着かせながら、そんなことを思っていた。


とりあえずフロントへ電話をかけると、怜央さんのお父様に、この豪華客船の中に警察がいることを教えられた。

「なぜこんなところに警察がいるのてしょうか?」

「護衛じゃね?金持ちたちがたくさんくるんだから」

「なるほど……」

警察に男性たちを連れて行ってもらっているときに、ある男の人が、私の目の前で足を止めた。

「……ナツネか?」

一瞬で、空気が変わる。

私の別の名前を知っている警察は、ごくわずか。

もしかして彼はーー。

「柳田さん、ですか?」

彼の名を口に出すと、あからさまに顔がほころんだ。

「ああ、そうだよ!久しぶりだな!こんなに大きくなって!昔はそれはもう残酷な殺し屋だったのに……」

「柳田さん、ここでそんな話はしないでください」

「おっと悪い。じゃあ、俺はここで。伝説の殺し屋さんに、殺されたくないんでね」

にやりと怪しげな笑みを残して、彼は去っていった。

「なんで警察が、水響のことを?」

「わたしたち殺し屋は、刑務所から逃げ出した、または逃走中の犯人に罰を与える、残酷な仕事をする者たちです。わたしたちが殺すのは、警察に依頼されたターゲットだけ。だから警察とはつながりが強いんですよ。ちなみにあの人は私がまだ殺し屋だったころからの顔なじみです」

「ふーん……」

柳田さんの背中を不満気に見送る京真さまが不思議で、彼の顔をのぞくと、ぱっと顔をそらされた。

「……思ったんだけど、なんで犯人たちは香穂さんの部屋を知っていたんだ?」

「部屋に入っていくところをみたからでは?」

「部屋に入っていくところを見たからといって、香穂さんを襲う理由にはならないだろ?だから、そこには香穂さんを襲う理由があったんだ。それか、香穂さんの部屋の番号を知っている人物が手を加えている」

「つまり、香穂さんは何者かに狙われている可能性ごあるということですか?」

「なくはない。だってわざわざ、怜央さんでもなく、社長夫妻でもなく、彼女の香穂さんだぞ?彼女を狙う理由がわからないな」

「花鳥にも伝えておきましょうか」

京真さまと目を合わせてから、花鳥のもとへと向かった。


「えっ!?姉さんが狙われた!?」

私と京真さまの部屋に花鳥を招いて、頭をつきあわせて作戦会議をする。

「ええ。香穂さんはおそらく、誰かに狙われているわ。花鳥、心当たりはない?」

「いや、とくには……けど、姉さんを狙ったのは許せないっす!」

拳を握って、悔しそうな顔をする花鳥の肩に、そっと手を置く。

「花鳥。香穂さんはあなたがお守りしなさい。あなたには、一般人を守れる力がある。私は京真さまも護衛しなきゃだからずっと香穂さんを守れるわけではないけど、できるかぎり協力するから。わかった?とりあえず、一緒の部屋にいてあげなさい」

「……わかりました」

京真さまはずっと、何かを考えている様子だった。


「はあ?なに殺しそこなってんだよ。役立たず共が」

いくつもの監視カメラのモニターを見上げながら、軽く舌打ちをする。

まあいいわ、と背中を倒した。

「他にもターゲットはいるしね」

画面に照らされた横顔が、あやしく歪んだのを見た人物は、誰もいない。

                 続く


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