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〜情報屋編2〜

パシャッ パシャッ

瞳にチカリとまたたく照明。ポージングは秒で変更。

だけど笑顔は、絶やさない。

これが私、『雪』の仕事だ。

「おつかれさまー!雪ちゃん、もうあがっていいよー」

「おつかれさまでした!」

「朝から夜までよく頑張ったね。今日はゆっくり休んでね!」

「はい!」

スタジオをでて、すかさずグラサンをかける。もちろんあのイブキみたいな、怪しげなグラサンではない。

おろしていた長い髪を一つにくくりながら、人気のない路地の中へ。

人からの視線が絶たれてやっと、深く息ができるようになったきがする。

おもいきり助走をつけて、建物を飛び越えていく。

都会の夜は、まるで宝石箱をひっくり返したかのようにキラキラしてる。

それがさっきまで見つめていた照明の光と重なって、少しクラリとした。


ガチャッ

「お、白雪ちゃんおつかれ〜」

「こんばんは、イブキ」

「今日も遅かったなあ。もしかしてまたモデルの仕事があったんか……?」

「……そうだけど」

今の情報屋としての私は、正装の和服姿。

わざわざ家に帰ってから着替えてきたんだ。

なぜなら、モデルの仕事をしたあとにここへ来ると、イブキの機嫌が悪くなるから。

だけど決まって最後には、悲しそうな顔になる理由が、私には分からない。

私のやりたいことを否定しないでよって言おうとするけど、いつもその顔をみて、何も言えなくなるんだ。

「今日は鏑木さんとことの交渉がある日やけど、白雪ちゃんほんまにいけるんか?疲れとるやろうし、俺一人だけでも」

「大丈夫だってば!イブキはいちいちうるさいなあ!ほら行くよ!」

最近部屋を借りて、事務所にしている建物の二階で活動している。

モデル活動は数年前からしてるけど、イブキとはずっと、パートナーとして活動してる。

この関係は、変わってほしくないなあ。


「どうも〜鏑木さぁん。お待たせしてすまんなあ」

「ああ、イブキさんか。そ、その、例の件についてだが……」

目をそらすスーツのおじさんに、イブキはけろりと言った。

「あの不倫現場とられた写真のことやんな?だあ〜いじょうぶやって!俺らが、写真撮ったやつの釘さしとくわ。最近は情報屋のフリして、儲かりそうな写真バンバンとって金儲けとる輩が多いからなあ」

その儲かりそうな写真を撮られた本人は、何と言っていいのか、目を泳がせている。

社会で儲けているお偉いさんなのに、一夜の過ちと一枚の写真でこんな姿になっているのは、なんだか不憫なきもする。

「てなわけで、50万」

「イ、イブキくん、毎回思うのだが、報酬が高すぎやしないかね?たった1枚の写真に、50万って……」

「その写真も持っとんよなあ、今。なんならあんたに渡してもええんやけど?それに、この写真ばらまかれて、困るんはあんたやんな?」

完全に言い負かされたおじさんは、しぶしぶバッグから50万円をとりだした。

「まいどありっ♪」

「今度からは撮られないように気をつけることですね」

用事は終わったからこれで帰ろうとしたら、おじさんに腕をつかまれた。

「?なんでしょうか」

「君、よくみると芸能人に似てるよね?モデルの可愛い子の、なんて名前だったかな、えーと」

どうしよう、表の私のことを知ってる人だった……!

髪をおろしてるのとそうでないときの印象が違うからバレないと思ってた……!

「かぁ〜ぶらぎさーん」

突然の、地を這うような低音の声。

「そいつには手だすなよ」

イブキのグラサンからのぞく瞳が、いつもと違う。

ゾクリと背中に鳥肌がたつ。

おじさんも、イブキの圧に圧迫されたのか、パッと私から手を離した。

「じゃ、じゃあここで失礼するよ!」

そういっておじさんが走り去っていって、私たちは二人きりになった。

「あ、あの、イブキ……」

「白雪、他はどこも触られてないか?」

そういってイブキが、私の腕をするりとなでた。

「ひゃっ……」

「白雪の肌も髪も、顔も、なにもかも。きれいなんだから、簡単にあんなやつに触らせるな」

腕の次は髪。その次は頬。

そして彼はまた、私の嫌いな、悲しそうな顔をする。

だけどどこか、愛おしそうな。

「イ、ブ……」

「そろそろ帰ろか」

イブキの手をつかもうとしたら、彼の手はするりと頬から手を離した。

行き場のない私の手は、空をきった。

「……うん」

ねえ私、イブキのことが、わかんないよ。

                   続く





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