〜情報屋編1 パートナー〜
休日。強い日差しが照りつける今日。
廊下を歩いていると、夏用のメイド服になった水響がそうじしていた。
「水響、明日の化学基礎って、課題あったっけ?」
「たしか、p30の四番を解いてきておいてと先生がおっしゃってーー」
バァンッ!
思いきり扉が開け放たれた音が響いた。
俺と水響は顔を見合わせ、一階へと駆け下りた。
「なっ……」
手すりをつかんだまま、俺と水響は絶句する。
「どうもー、情報屋でぇーす」
和服の上に羽織をかぶって、長い黒髪を高い位置でまとめている女。
グラサンをかけて、明治の書生服の恰好をした男。
その二人が、扉をあけて俺らを見上げている。
「え、えと、どなたさまでーー」
「白雪さん、伊舞希さん」
水響が、俺のとなりで声を上げ、下へと降りていった。
あわてて俺もついていく。
「なぜお二人がここに……」
「久しぶりやなあ、ナツネちゃん。ここ最近見えなくなってたから、三年ぶりくらいかな?」
「それよりは経ってるでしょ」
「にしても変わったなあ、ナツネちゃん。えらいべっぴんさんなって。それに、社長さんが逮捕されたと思ったら、今度は貴堂家のメイドて」
男はナツネの肩に手を置き、ぼそっとつけたした。
「あんたは自分を拾ってくれるやつのとこなら、どこにでもついていくんか?」
水響の体が、びくっと震えた。
思わず、水響と男の間にわって入る。
「あの、水響とはどういう関係ですか?チャイムもなしに扉をあけるなんてーー」
「へぇー、水響って呼ばれてるんや。それが本名かぁ」
あごに手をあてニヤニヤする男をみて、水響は眉間にしわをよせる。
「白々しい……わかってるくせに。情報屋が知らないわけないじゃないですか」
「そういえばさっきこの人たち、情報屋って言ってたけど、情報屋って…?」
「聞いてそのまんまや。俺らは、ナツネちゃんのとこの社長さんと契約結んで、情報提供しとったん。ほなけど社長さんが逮捕されてしもたから、契約が切れてしもうたねん。ほなから、一応挨拶回りみたいな?これからは関わりありません〜って」
「ちょっと伊舞希さん!カタギの人の前で言ってよかったの!?」
女の人が、あわてて男の口をふさぐ。
いけるいける、ともごもごしながらも男は答えた。
「どうせ関わることもなくなるし。それに、京真くんは知ってるんやろ?ナツネちゃんが元殺し屋やってこと」
紹介してもいないのに俺の名前を知っているのは、俺の名前が世に知れ渡っているからか、それとも。
俺はとりあえず、首を縦にふる。
水響は黙り込んでしまった。
「ほうか。んじゃナツネちゃん、俺ら用終わったから、帰らせてもらうわ」
「え、もうお帰りになるのですか?」
「私達、他にもいろいろ回らなきゃなの。また縁があったら、会えたらいいわね」
「白雪さん……」
「では、すみません貴堂さま。うちのパートナーが扉を乱暴に開けて、失礼をはたらきました」
「あっ、いえ……」
「パートナー……白雪ちゃんが言う響き、ええなあ……」
口元を手でおさえる男を、女性がズルズルとひっぱって出ていってしまった。
「水響、さっきの人たちとは、何か関わりがあったの?」
「はい。私は小学生のころから殺し屋をしていたのですが、あの人たちも私と同じくらいから情報屋として働いていて、情報を提供してくれていた良い協力者でした。年は白雪さんが私より3つ年上で、伊舞希さんが4つ年上です」
「てことは、伊舞希さんは21歳なんだ……」
あの冷静な女性はともかく、あの男が自分よりも年上だったということに衝撃を受けたのだった。
「いやぁ〜、今日はくたびれたな〜」
「そうねえ……」
俺と白雪ちゃんは、バーでぐったりとのびていた。
夜も遅いから、客は俺たち以外には誰もいない。
「でもびっくりした。まさか社長さんが逮捕されたときに、殺し屋の多くも捕まってただなんて」
「そうやなあ。まああの人、子供ばっかりに殺し屋の仕事させてたから、"あのとき"の騒動で一緒に捕まったんやろ」
「おかげで一日で終わったけどねえ……私たちは、これからはどうするつもりなの?」
俺をまっすぐ見つめてくる白雪ちゃんの瞳に耐えられなくて、俺は酒をぐいっとあおった。
「……白雪ちゃんは情報屋の仕事がなくなっても、俺と一緒にいてくれようとしとんやなあ」
「なっ、別にそういうわけじゃっ……!ただ、ずっと一緒にいたから、其の、なんていうか…」
「かわええなあ、白雪ちゃん」
「どこがよっ!」
白雪ちゃんはブツブツ言いながらも、お酒をちびちびと飲んでいる。
「白雪ちゃん、いっつも同じやつだよねえ。俺おすすめあるよ」
「なに?」
「ブラッドハウンド」
「この、赤いやつ?」
「そうそうそれそれ。知っとる?白雪ちゃん。それはカクテルの一種なんやけど、カクテルにはカクテル言葉ってのがあって、それぞれ花言葉みたいに意味があんねん」
「へえ。ちなみにそのブラッドハウンドは、なんて意味なの?」
「……ヒミツ」
「はあっ!?聞いて損した!まあいいわ!すみません、ブラッドハウンドください!」
「結局頼むんかい」
「ヤケよヤケ」
ぐいっとそれを飲むと、ふらあ〜っと白雪ちゃんがテーブルにつっぷした。
「もう飲めにゃい〜…」
「あー一気に飲んでもた……白雪ちゃんお酒弱いのに…」
まあ、お酒弱いのに酒好きの俺に合わせようとして、いつもバーについてくるの、かわええけど。
「"ハルくん"……」
何度聞いたかわからない名前だ。
寝ている白雪ちゃんが、夢の中で呼んでいるのだろう。
「……諦めたらええのになあ……」
カラン、とグラスの中で、氷が音をたてた。
続く
こんにちは!
お久しぶりです!!皆さん、お元気でしたかっ!?
さて、今回から情報屋編1ということで、新章です!
自分の好みの二人に仕立て上げました。
白雪ちゃんの「白雪」は、白雪姫から来ています。きれいな黒髪と、白い肌をイメージしていたので、命名。
伊舞希の名前の由来は、イブキという花からです。意味は「あなたを守ります」。この意味が、本編にどう絡んでくるのか、楽しみにしていてください!
そして最後にでてきた"ハルくん"は、二人とどういう関係なのか……。
第二章のお話に、今後ともつきあってくださったら嬉しいです!
また今回も、お話を読んでくださってありがとうございます!あとがきまで読んでくださるあなたに、いいことがあれビームを送ります!ビビビッ!
それではまた次話でお会いできたら嬉しいです♡