~番外編2~
『従順メイドはクラスメイト』
「あっっつ……」
世間は夏真っ盛り、夏休み真っ最中だ。
「年々暑くなってません?外にでるのがおっくうになってしまいますね…」
衣替えにより半袖バージョンのメイド服を着た女性が隣に並んだ。
彼女の名前は水響。
俺のメイドで、クラスメイトで、……俺の彼女だ。
水族館で水響が愛してると言ってくれた数日後、俺は改めて、彼女につきあってくださいと告白した。
そのときの彼女の、迷うような、でもそれ以上に泣きそうな顔が今でも忘れられない。
「水響」
「はい」
しっかりと水響の目をみつめて口をひらく。
「俺、君をぜったい幸せにするから」
水響は唇を震わせた後、ぱっと片方の手で顔を隠してしまった。
「……私を殺したいんですか」
指の隙間からのぞく銀色の瞳と視線が重なる。
と、そのとき。
「あ~~あっっつー!」
バアンッと扉が開かれるのを合図に、俺たちはぱっと距離をとった。
「……イブキさんですね。私対応してきます」
「お、俺も行くよ」
俺の横を通っていく水響の耳は、赤くなっていた。
「いやー、こんな時間に外で歩くもんじゃないわね」
「ほんまにそれやで。水響ちゃん、冷たいのみもんよろ」
「イブキさん……それはそうと、今度はどうしましたか」
この二人が屋敷に来るのはもう慣れてきているメイドと主人の前に、イブキがバッとチラシを掲げる。
「今日18時から相場浜公園で夏祭りあるらしいねん!二人も行かん?」
「その年で夏祭りって…子供です」
か、と言い終える前に、京真のキラキラとした顔が視界にはいる。
「……しょうがないですね」
「ほんとに京真くんのことになると甘々よね水響ちゃんって」
「ほやなー。あ、水響ちゃんと白雪ちゃん、浴衣着てきてな」
「は?」
「私の事務所から借りれば何着もあるけど、行くのめんどいし着付けもしてもらわなきゃだからめんどいんだけど」
「お願いやて白雪ちゃん!ぜったい白雪ちゃんの浴衣姿きれいやからみたいなー?」
誠実さをあらわすためかグラサンをはずし、白雪さんの目の前で両手をあわせるイブキさん。
数秒はくはくと口を動かしたかと思うと、ふんっとそっぽを向いてしまった。
「そこまで言うなら、しかたないわね……!」
「わーい!おおきに!」
「なんだかんだ言って白雪さんもイブキさんに甘いですよね」
「だな」
「イブキ。今日はちゃんとエスコートしてよね?」
さすがというべきか、プロモデルの白雪さんの浴衣姿はとてもきれいだ。
発光してるみたい…。
「当たり前やろ。こんなきれいな女の子と夏祭りなんて、俺死んでまうんかなー」
「うそばっかり」
そういいつつ斜め下を向く白雪さんの顔は、とても嬉しそうだ。
「水響、すごくかわいい!きれい!」
赤い顔で両手を握る私のパートナーと目があう。
「ふふ。下駄をはいてるのでいつもより顔が近いですね、京真さま」
「話きいてる!?」
かわいいとかきれいとか、本当はあまりピンとこない。
京真さまが私に言ってくれるこの言葉は、どうせお世辞なんだろう。
「ほら、あっちに焼きそばとわたあめと、チョコバナナもある!全部いくで白雪ちゃんっ!」
「こんなテンション高くてよくはずかしくないわね…」
最初こそ四人でまわっていたけれど、お店でい会計をすませていると、白雪さんとイブキさんの姿が消えていた。
「お二方がいません」
「あれっ?ほんとだ。どこ行っちゃったんだろ」
あたりを見まわすと、すぐに、少し離れたところにいる二人をみつけた。
けど、今はーー。
「京真さま。あそこのわたあめが食べたいです」
「おっ。いいよ行こうか!」
二人がいる方向と真反対のお店を指さしたのだった。
「あっ、あの!芸能人のハルですよね!?」
興奮した様子で声をかけてきたのは女子高生二人組。
やばい。しばらく裏社会にとけこんでたから目立たなかったけど、この人元国民的俳優だったんだ…!
「何言ってるの?ていうかハルって誰?」
全力でとぼけようとするけど、今時のJKの興奮の方が勝つ。
「えっ知らないんですか!?あのハルですよ!?」
「すみません、メガネはずしてもらうことってできませんか…!?」
いやわかるけど…!私だって同じ立場ならこんぐらいぐいぐいいくだろうけど…!
「いや迷惑だか」
「君たち誰ですか?私はこの人のボディーガードですが」
いつもより低い声がより近くにきこえると思ったら、肩をぐっとつかまれ距離が近くなる。
「えっ、ボディーガード…?」
あきらか遊びにきてる恰好じゃんと目線で訴えられるけれど、イブキさんはスルー。
「今はこのような格好をしておりますが、スーツで来るより適切と判断したためです。なおかつ私は今仕事中の身です。おいそれと他人に顔をさらけることができませんので、どうかご了承ください」
ハルさんのやわらかい雰囲気とは真逆の堅物ボディーガードマンに、彼女たちの興味が徐々に薄れていくのがわかった。
「すみません、人違いだったかも…」
「ごめんなさい」
首をかしげながら遠ざかっていく二人の姿が見えなくなったところで、ぷはあっと抑えていた息を吐いた。
「もう。すごくびびったんだけど。私も有名人だけど、あなたもだってこと忘れないでくださいよね、国民的俳優のハルさん?」
「元、な」
グラサンをずらしにへっと笑う彼は、ほんとうにあのころのハルさんだ。
だけど多くのファンと芸能界が注目した彼の正体を知るのは、今は私だけ。
「あーやばい…優越感が」
「?」
「あ、花火ですよ、京真さま」
土手に座っていると、ちょうど夜空に大輪の花が咲いた。
「意外と音大きいんだな!」
「すみません、なんですか?」
ドンドンいう音のせいで、彼の声が聞こえにくい。
そう伝えると、スッと彼の顔が近づいてきて、耳元でそっとささやかれる。
「水響はかわいいなって」
思わずバッと耳を塞ぎ、京真さまを恨めしく見る。
「不意打ちはやめてくださいよ…」
「へへ」
人生で初めてきた夏祭りは、いろんな音で溢れてて、にぎやかで、明るくて。
小さい頃の私の憧れだった。
それがまさか、こんなにも大切な人と一緒に、こうして肩を並べて花火を見る日がくるなんて。
幸せで、……泣けてきてしまう。
「きれいですね」
涙声になってたけど、ちょうど花火の音とかぶって、京真さまには聞こえてなかったらしい。
「え?なんて?」
すうっと息を吸って、今度は私から反撃。
ちゅっ
「……ふふっ、真っ赤」
反撃が成功して満足気な私の横で、京真さまは花火が終わるまで顔を覆っていた。
※ナサとナチ、花鳥がまたまた再会しバーに出向いた時の話
「っと…あ、すみませんナチさん!後ろにいるとはきづかず…!」
ふとした拍子に後ろへよろけた花鳥の後ろには、運悪くナチが。
顔面蒼白になる花鳥の目が、一瞬にして点になった。
「……え?え!?」
フードがずれたのをなおそうとしたナチが、おもわず肩をビクッとさせる。
「……なに」
「ナ、ナチさんって……女性、だったんですか? 」
「おや?少年、言ってなかったか?」
「知りませんでしたよ!なんなら男性って言っても否定しなかったじゃないですか!」
「いやーおもろいかなと」
にぱっとウインクする〇十代半ばのナサはスルーされた。
「普通に気になるんですが、なぜなんですか?」
「……そうだなー。随分と昔のことだからなー。…ナチ、話してもいいか?」
ナサの提案に首を横へ振ったことがないナチのことをよく分かっているため、彼女の承諾の途中で、ナサは話を始めた。
その日は月が綺麗な晩だった。
酒も飲んだ帰りで、すっかりあたしは上機嫌になっていた。
そしてバーからの帰り道で、その子をみつけたんだよ。
かわいそうに、父親から思いっきり腹やを殴られ足を蹴られてね。
まるで復讐でもするかのようなめつきだったな。
もうたいして小さくない、高校生くらいの女の子だ。
だけど慣れているかのように、過ぎ去る嵐を待つ雛鳥のように、その子はされるがままだった。
気づいたらこえをかけていたよ。
『 こんばんは、旦那。せっかくの月が綺麗な日なのに、下向いて趣きが無いことやってるんじゃ、人生損してるよ』ってね。
そしたらこっちに向かってきたから、まあ軽く絞めるよね。
『 ああ旦那、手を動かさないで。うっかり殺してしまいそうだ』って言ったら、なんかすごい震えて家の中入っちゃったんだけどね。
その子には名前がなかった。
話をきいてみると、やはり小さい頃から親から暴力を受けていたらしい。アパートずみで、家で暴力をふるっていたら他の階から苦情があったから、バレないよう裏の空き地でボコられていたらしい。
……なんともかわいそうな話だ。
だけどね、この子だけがかわいそうなんじゃない。
みなが知らないだけで、気づかないだけで、こういう子供、大人は大勢いるもんなんだよ。
私はその子に名前を与えた。
ナチ。
名前がなくたって、幸せに生きられる。
だって、名前をつけるのなんて、たくさんある愛情表現のうちのたったひとつなのだから。
それがないからと言って、悲しむことは無いという、いわば励ましのようなものだ。
『 あたしはナサっていうんだ。ナサとナチ。な?なんだか最強の響きにきこえてきただろ?』
そう言うと泣き出しちゃってなあ。
ガキのあやしかたなんてわかんないから困ったよ。
……でも、いまはちょっとだけ後悔してる。
こんなあたしみたいな暗殺者に拾われて、ほんとによかったのかって。
もっとナチが輝ける、いい人との出会いが他にあったんじゃないかって。
「そんなことないです!わたしはあなたがたとえ天使だろうと悪魔だろうと、どこへでもついていきます!だって初めて私を救ってくれたのは、あなただったんだから…!」
それまで黙って聞いていたナチさんが、顔を覆って泣きだしてしまった。
ナチさんのこんな姿を見たのは初めてだ。まともに目をあわせたのなんて、今日にらまれたときが初めてなんだから。
「まったく、おまえは昔から泣き虫だな」
そう言ってナサさんが、フード越しに優しく頭を撫でる。
家族でもない、友達でもない、だけどこの2人からは、それ以上の強い絆を感じた。
「…よし!景気づけに飲み直しましょうか!」
「なんでおまえがしきってるんだ」
未成年の俺が指揮をとったことで、ナサさんにあきれられたのだった。
こんにちは!
みなさんお元気にしてましたか?
この作品は一応最終話までいきましたが、最終話をよんでくださった人が予想より多かったことにより、ちょこちょこ番外編をだしています!
そこでなんですが、このキャラのあんなお話が読みたいというかた!
たぶんコメントが私に送れるので、それで教えてくれたら嬉しいです!
ではではまたの機会に!




