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〜番外編〜

※これは貴堂京真が病院に入院したあたりの時間軸です


東京は眠らない。

目がくらむほどの明かりに包まれた都市から一歩離れた場所に、彼が眠る病院があった。

その目はかたくとざされている。

ふと、彼の顔に影が落ちた。

しまっているはずの窓が細い音を立てて開かれる。

ひらりと身軽に着地したのは、豪華客船事件以来姿を消していたフウゲツだった。

『花鳥くん!』

フウゲツが横に座っても、京真の顔はぴくりとも動かない。

太陽が、雲に隠されてしまった。

「あんたって、しゃべってないと変な感じっすね」

ベッドの上に横たわるてのひらを握る。

かたくて、ひんやりとしていた。

『この手は、自分の大切な人を守ろうとする、強くて立派で、きれいな手だ』

そう言って笑ってくれない。こんなの、彼じゃない。

「……今度は俺の番っすから」

決意とともにかたく手を握りしめ、フウゲツは窓の外の月を睨んだ。


「じゃーな花鳥ー!また明日ー」

「おー。じゃあなー」

友達と自習をしていたから、学校を出るのが夜の19時をまわってしまっていた。

ネクタイをゆるめつつアパートへ帰る道を行く。

背後から誰かの気配を感じた。

角までまがると、すばやく壁に隠れ、臨戦態勢に入る。

その人物が現れそうになったとき。

俺が高く振り上げた足が、同じスピードでぱしっとつかまれた。

「こーら?お行儀の悪い子はもてないぞDK」

「なっ…あなたは…」

真っ赤なネイルに縁どられた白い手から視線を上げると、数年ぶりにみる顔があった。

そしてもう一人、これまた同じスピードで、俺の顔に銃をつきつける男も。

目深にかぶったフードの端から、鋭い眼光がひかっている。

少しのきまずさから、おそるおそる足をおろして頭を下げた。

「……失礼しました、ナサさん、ナチさん。俺をつけてたの、あなたたちだったんですね」

「久しぶりだな少年!背もすっかり大きくなってしまって」

真っ黒なロングスカートに、上は肩のでたブラウス。胸の真ん中で、真っ赤なリボンがひらりと舞った。

ひらひらと手を振る彼女はナサさん。

そして無言で銃をおさめた男性は、ナチさん。

一見正反対の性格に見える彼らが一緒に行動しているのは、ナチさんがナサさんに心酔しているからというのが理由だ。

そして、あともう一つ。

この二人はこうみえて、日本を代表する殺し屋組織のトップ4のうちの二人なのだ。

殺し屋には、明確なランク分けはないけれど、社長のような司令塔が一番上、そして次にトップ4,その他というかんじだ。

年に一回、犯人の処理数、スピード、正確さ、武器の取り扱いの上手さなどを競う催しがあり、そこで高得点をだせば、トップ4に入れるというシステムだ。

だけど、今の四人になってから、メンバーは誰一人として変わっていない。

もう一人はナツネさん、そしてもう一人は70代の男性だが、俺でも勝てないほど強かったのを覚えている。

今はナツネさんがやめてしまったから、トップ4からトップ3に変わっている。

「酒を飲みにいかないか?話したいことがあるんだ。夜は長いしな」

ぐいっと酒をあおるまねをするナサさんにげっそりとした表情を向ける。

「さっきからDKとか少年とか言ってるじゃないですか。俺まだ未成年ですよ」

「おっ、そうだったな!?いやー忘れてたわ!まあいいわ、ジュースも出る店知ってるんだ、一緒に飲もうじゃないか!」

「はあ、まあそれなら…」

「しかし少年、やはり君が制服を着ていると変なかんじだな」

「ああ、まあ…普段はパーカーですからね。ネクタイはきついし。あと、異様にシャツが白いのが変におちつかないんすよね。ちょっとしたことでも汚れてしまいそうで」

ああ、そうだな、というと、目線を落としてしまった。

たぶん彼女の瞳には、真っ黒なスカートが映っているのだろう。

そして勢いよく顔をあげ、ガッと俺の肩に腕をまわしてきた。

「まーしかし、若いということだ!今しか楽しめないんだから、思う存分アオハルを楽しめ!」

「……さっきから思ってたんすけど、なんか言葉の節々から年齢の差が垣間見えるきが…」

そこまで言ったあとに、それ以上口にすることができなかった。

なぜなら首元に、鋭利なナイフがつきささろうとしていたから。

「おい。ナサさんは若くて美しいだろうが。殺すぞ」

「冗談すよね……?」

「こらナチ。そんなものしまって。今夜の気分にはあわないよ」

「……すみません」

そこでようやっと、ナイフが離れた。

両隣からトップ2にはさまれて、さっきから冷汗がとまらない。

「さ、行こうか!」

それはもうひとなつっこく、ナサさんはにぱっと笑った。


「なに?暗合会議で宣戦布告?」

会社の下にあったバーとは別の、殺し屋組織の傘下であるバーにやってきて、カウンター席に腰掛ける。

他には人がいない。普段は仕事帰りの殺し屋たちがくるところなんだけどな。

それにしても、やっぱりこの場所には制服では浮いてしまう。

苦笑いを浮かべてから、ナサさんに向き直る。

「はい。豪華客船事件が最近ありましたよね。俺、その現場にいたんです。そのとき、貴堂京真さんが襲われた。いろいろ調べていったら、俺らの組織、犯罪者を始末する依頼だけでなく、金持ちの関係者を始末して、金にかえていることがわかったんです」

「なるほど」

もっと驚くかと思いきや、ナサさんの反応はいたって冷静だ。ナチさんは無言。

「おどろかないんですか?」

「いくつか心当たりがある。私が把握していないいくつかの報告書。そして司令塔たちの何かを隠すような態度。そういえば、その貴堂京真という人物、聞いたことあるぞ。たしか貴堂財閥の一人息子だったよな?知り合いなのか?」

「ええ、まあいろいろあって」

「話は変わるが少年、たしかおまえナツネのこと好きだったよな?」

思わずジュースをふきそうになって、危ないところで息をはいた。

「なっ!?なんでっ…!?」

「あーやっぱりなー。少年のナツネに対する感情は、憧れを超えて恋っぽいなーとはおもっていたんだが、やはりそうだったか」

「……まあ、俺はもうあきらめてるんでいいです。ナツネさんには京真さんがいるので」

今度はナサさんのほうが、ぶはっと酒をふきそうになる。

「えっ?貴堂とナツネはつきあてんの?そんで少年は、貴堂を守るために暗合会議をジャックするつもりなのか!?」

俺が彼女に伝えた計画。

暗合会議とは、三か月に一回行われる殺し屋組織総出の極秘会議。

日本全国の殺し屋が一カ所に集まることは不可能だから、各地からリモートで参加し、司令塔の立場の人たちが、地下の会議室で仕事内容や依頼者を伝える、とても重要な会議なんだ。

それの回線をのっとり、京真さん暗殺計画をやめさせるように宣戦布告をする、というものだった。

「たとえ一人で、日本全国の殺し屋たちと敵になったってかまいませんよ。司令塔が黙っていないでしょうけどね」

「ふーん。あたしたちが貴堂を殺して金にしようと思ってても、それでも少年は戦うんだ?」

細められた瞳が、俺を試すようにみつめてくる。

膝の上で握った拳に、さらに力をいれる。

「はい。たいていの殺し屋には負けないつもりですが、あなたたちにこられたら、勝つ自信はありません。それでも、これが、俺なりのあの人を守る方法なんです」

「……好きの人の好きな人だぞ?普通どうでもいいとか、憎らしいとか、思わないのか?」

そうですね…とこぼしてから、でもとつけたした。

「大切な人の大切なものって、自分も守りたいって思うんですよね」

そう言って笑うフウゲツを横目に見て、ナサはフッと微笑む。

「……そう。健気な男の子には、力を貸したくなるねえ。…いいよ。あたしも一緒に協力してあげる」

「ほんとですか!?」

すごく心強い…!

「たしか日にちは明日の午前二時。あと一時間半しかない。どうやって外部からの回線をみつけるきだ?」

「それは、まだ…」

「話は聞かせてもろたで!」

突然バンッと扉があいて姿を現したのは、明治時代の服装が印象的な彼らだった。

「イブキさん、白雪さん!」

「おー。これまた懐かしい二人組だー。やっほー」

「おひさしゅうナサさん、ナチくん!」

「お久しぶりです。話は聞かせてもらったわ、フウゲツくん。私たちなら回線をつなげられると思うわ」

「ほんとですか!?って、まさか外から話聞いてたんすか」

「いやいや。盗聴器仕掛けるぐらいおちゃのこさいさいやから」

普通に犯罪なんだよなあと思ったけど、心の中でとどめておくことにする。

「水響ちゃんにどなっちゃったのよね、私。京真くんも水響ちゃんも幸せになるのなら、私も協力する」

「ありがとうございますっ…!」

一気に仲間が増えた。俺の願望を後押ししてくれる。

数年にわたる仲間たちの顔をみわたし、心があたたかくなるのを感じた。


ーー地下三階、ミーティングルームにて

「定刻になった。これより暗合会議を始める」

五人の司令塔たちが顔を見合わせ、暗合会議がスタートした。

後ろの壁には、プロジェクションマッピングで映し出された、リモート越しの殺し屋たちのメンツが並んでいる。

『あー…テステス』

ジジジッとノイズが走り、ブツンと嫌な音が鳴った。

かと思いきや、今度は明るい声が部屋に響く。

『あれ、これつながっとるんかな?ここのボタン押したんやけどな―』

『バカ!このコードとそっちのやつつなげなきゃ聞こえにくいでしょ!』

「この声……情報屋か…!?」

画面越しからも、殺し屋たちの動揺が伝わってくる。

会議中に外部からの突然の放送。

しかも、漏れ出ている回線をむりやりつなげている状況から、司令塔たちの顔がこわばるのには十分だった。

『ーー俺の要件は一つだけ。貴堂京真とナツネに二度とかかわるな』

透き通った声が響く。司令塔の眉間に、さらにしわがよった。

「おまえ……フウゲツか?会議中にこのように乱入してくるとは、なんたる無礼者だ。組織を抜けた裏切り者は、この場にはふさわしくない。それに、貴堂京真?彼がどうしたというのだ」

『たしかに俺はもうこの組織を抜けました。豪華客船事件、覚えてますよね?ニュースで大きく報道された、ごく最近の事件です。貴堂京真と御浦香穂、そして御浦茉莉花という人物をご存知ですか?』

ほんの少し、空気がはりつめた。

司令塔たちの顔は見えないけれど、マイク越しでも、俺には十分だった。

「さあ、誰のことだ。カタギか?」

『しらばっくれないでください。そのときに潜入していた殺し屋たちを調べたら、御浦茉莉花から指令を受けてあとの2人を殺そうとしたと吐いていました。そして、カタギのはずの御浦茉莉花が、この組織と契約を結んでいたことも知っているんです』

「……何が言いたい」

『警察との協力以外のことでも利益を儲けていますよね。表向きは良いことをしてる殺し屋。けどまさかカタギにも手を出していたなんて……』

「…フウゲツ。おまえ、誰にものを言っている?」

ダンッと力強く机を叩く音が響いた。

怒りから、鼻息が荒くなっているのがわかる。

「証拠もないだろ…!それにたかがおまえ一人、簡単に命ごと潰せるんだからな!?」

『証拠ならあります。……それに、俺は一人ではありません』

『はぁいこんばんは。今日は月が綺麗ですねー』

「その声は……」

司令塔の声が渋く呻いた。

『せっかく今日は満月なのに、真っ暗な地下で会議するの、趣ないと思いますよ司令官?』

『そやでー。そんで漏れとる回線、ちゃんと修復しときや?まあおかげで簡単に探せたんやけど』

『ずっと思ってたけど、なんで暗合会議ってこんな夜遅くにあるのよ。肌に悪いですよ!』

「ナサにイブキ、白雪まで……余計なことをふきこみやがって…」

『言っとくけどナチもいるからね。ナツネは今いないけど、あのこもこっち側だ』

『面白そうなことをしているじゃないか』

マイクを握るフウゲツの後ろに、風が起こった。

瞬時に5人して臨戦態勢に入ると、真っ黒なマントを翻す老人がそこにいた。

『おや嘔鬼【オウキ】さん、久しぶりじゃないか』

「オウキもいるだと…!?」

すごい。全然気配がしなかった。

フクロウモチーフの仮面をつけた老人。

この人が、最後の一人、トップ4のオウキさんだ。

『久方ぶりに知り合いをみたものだから、フウゲツのあとをつけていたんだ。私も君に協力しよう、フウゲツ』

『オウキさん…!』

『……まあ、突然の来訪者もきたが。このとおり、私たちはあなたたちと全面戦争をする覚悟もある。そうなりたくなければ、今すぐこの組織を解散させ、罪を償え』

「なっ……は…!?」

『どっちかや。死ぬか生きて罪を償うか』

重苦しい無言が続いた。

俺たちはこの無言を肯定と捉え、ブチッと放送を切った。

「あの、どうしましょう…!警察に自首なんて…」

「……それでも、あいつらに一生追いかけ回される人生のほうが御免だ。元トップ4に期待の新星、元情報屋たち。太刀打ちしたところで、惨殺されて終わる。……この組織もこれで終いだ」

「そんな……」

ーーこうして、数十年続いた殺し屋組織は、幕を閉じることになるのだった。



「……今日は天気がいいですね」

窓から外を眺めると、真っ青な空が目に入った。

「今日は日曜だし、公園まで散歩とかするか?」

「お供いたします」

京真さまが目覚めて数週間経った今日。

屋敷には穏やかな時間が流れている。

眠たくなるような日光を受けながら散歩をしていると、少し離れた公園まで来た。

日曜日だから、両親と子供たちがたくさん遊んでいる。

「なんかいいな、こういう光景」

「…ですね」

と、女の子がすぐ横を走り抜けた。

その横顔に見覚えがあるきがして、思わずその子の方をつかんでしまった。

「あなた……」

「あれ?」

印象的な三つ編みはもう跡形もない、元殺し屋の女の子だった。

「お久しぶりですナツネさん!」

「……本当の名前はナツネじゃないの。それにしてもあなた、どうして…」

「その節は大変失礼しました!」

いきなりその子がバッと頭を下げるから、周りの人たちから変な目で見られてしまった。

「この子、知り合いなのか?」

「ええ。社長に軟禁されていたときにいた子です」

ああ……と苦々しくつぶやく京真さまにほほえみ、女の子に目線をあわせた。

「あそこから逃げられたようで良かった」

「……はい。今は裏の仕事もやめて、養子になりました。あそこにいるのが、私のパパとママです」

指の先を見ると、優しそうな両親が心配そうにこちらを見つめていた。

「……幸せ?」

「はい。前よりもずっと」

なんとも子供らしい、年相応の笑顔にこちらまで笑顔になってしまった。

「そう。ならよかった。ごめんなさい、声をかけて」

「いえ。では!」

走り出そうとしたその子に向かって、待って!と声をかける。

「私、水響っていうの。あなたの名前は?」

その子は驚いた顔をして、でもすぐにニカッと笑って答えた。

「希望です!」

あたたかい陽光が、これからの未来も優しく、照らしてくれますように。

そう願わずにはいられなかった。









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